現代の西欧諸国においては、精神保健サービスは病院よりも地域で提供されることがはるかに多い。英国では、病院および病院を基盤とした外来クリニックはコミュニティメンタルヘルス治療チーム(CMHT)に置き換えられた。そのメンバーには精神科医だけでなく看護師、心理士、作業療法士、ソーシャルワーカーも含まれており、通常は地理的に定められた地域内の、病院以外の場所で活動している。
このレビューは、重度の精神的問題を持ちながら地域で暮らす人々を対象として、入院でのケア、病院外来でのケア、デイホスピタルといった標準的ケアとCMHTを比較することを目的としている。これらの基準を満たす3件のランダム化比較試験が見つかった。合計で587人が参加しており、英国の都市部で3か月から1年かけて実施されていた。研究からの早期離脱を記録した2件の研究では、253人のうち合計で52人が早期離脱していたが、CMHT群とコントロール群との間に人数の有意な差は無かった。死亡は全ての研究で記録され(自殺、不審死および身体的な健康不良)、2群間に有意差は無かったものの、CMHT群の方が標準的ケア群より一貫して死亡率が低かった。CMHT群の人々は研究期間中の入院率が有意に低く、社会福祉サービスの利用率も低かった。しかし、救急外来、全般的な病院サービス、プライマリケア(家庭医)の利用については群間に有意差は無かった。1件の研究ではケアへの満足度を調べており、CMHT群の人々は標準ケア群よりもケアに満足していることが分かった。
英国およびその他の西欧諸国では、上記のような限られたエビデンスにも関わらずCMHTへの移行が起こったため、基礎となるエビデンスを改善させるのは困難な状況である。このことは、CMHTを早期介入や危機解決といったより専門的なサービスと比較する際に留意するべきである。
(このレビューの平易な要約は Janey Antoniou of RETHINK, UK www.rethink.orgが作成した)
《実施組織》 五十嵐百花 翻訳, 佐藤さやか 監訳 [2020.8.5] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所地域・司法精神医療研究部(以下、NCNP精研地域部;cochranereview.ncnpcmhl@gmail.com)までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。NCNP精研地域部では最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD000270.pub2》