正期産児に対する長鎖多価不飽和脂肪酸の補充

レビューの論点:長鎖多価不飽和脂肪酸を補強した調製粉乳を正期産児に与えることによって、長鎖多価不飽和脂肪酸を補強していない調製粉乳を与えたときと比較して、結果的に視力や神経発達全般が向上するのか。

背景:長鎖多価不飽和脂肪酸は新生児の脳や視力の発達に不可欠な脂肪酸の一種である。母乳には長鎖多価不飽和脂肪酸が十分に含まれているため、調製粉乳よりも優れていると考えられている。調製粉乳の中には長鎖多価不飽和脂肪酸を添加したものが販売されている。

試験の特性:本レビューでは、長鎖多価不飽和脂肪酸を補強した調製粉乳を授乳した正期産児(妊娠37週以降に出生)と、長鎖多価不飽和脂肪酸を補強していない調製粉乳を授乳した正期産児の発育に関する結果を比較した試験を解析した。

主な結果:レビュー著者らによれば、長鎖多価不飽和脂肪酸を補強した調製粉乳を授乳した正期産児の発育は、長鎖多価不飽和脂肪酸を補強していない調製粉乳を授乳した正期産児について報告された発育よりも、結果的に優れていなかったことがわかった。

エビデンスの質:全体的なエビデンスの質は低いと判断された。

著者の結論: 

レビューの対象としたRCTのほとんどが、調製粉乳を授乳した正期産児の神経発達の転帰に対する、長鎖多価不飽和脂肪酸の補充による有益な効果ないし害を報告しておらず、視力に対する有益な効果には一貫性がなかった。現時点では、正期産児用の調製粉乳に長鎖多価不飽和脂肪酸を日常的に補充することは推奨できない。

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背景: 

長鎖多価不飽和脂肪酸(LUPUFA)、ドコサヘキサエン酸(DHA)およびアラキドン酸(AA)は、新生児の脳や網膜をはじめ臓器の成熟に不可欠な脂肪酸の一種である。標準的な乳児用調製粉乳には長鎖多価不飽和脂肪酸は含まれておらず、含まれているのはα-リノレン酸とリノール酸のみであり、調製粉乳を授乳する乳児は自力で前者からDHAを、後者からAAを合成しなければならない。ここ数年にわたり、一部の製造会社が長鎖多価不飽和脂肪酸を調製粉乳に添加して、正期産児の全体的な発育に有益であるとしてその製品を販売してきた。

目的: 

調製粉乳への長鎖多価不飽和脂肪酸の補充による視機能、神経発達と身体発育に対する効果に注目しながら、正期産児にとって安全で有益であるかどうかを評価すること。

検索戦略: 

レビュー著者2名がそれぞれCochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL; 2016年12月)、MEDLINE(Ovid, 1966年~2016年12月)、Embase(Ovid, 1980年~2016年12月)、Cumulative Index to Nursing and Allied Health Literature(CINAHL; 1980年~2016年12月)およびPediatric Academic Societies(2000年~2016年)の論文抄録を検索した。言語の制約は設けなかった。

選択基準: 

長鎖多価不飽和脂肪酸を補充した調製粉乳と補充していない調製粉乳との比較による視機能、神経発達、身体発育に対する効果を評価したあらゆるランダム化比較試験(RCT)をレビューの対象とした。生化学検査結果のみを報告した臨床試験を除外した。

データ収集と分析: 

レビュー著者2名が別々にデータを抽出した。Cochrane Neonatal Review Groupのガイドラインに従って、レビューの対象とした試験のバイアスのリスクを評価した。適切であればメタアナリシスを実施して、統合データによる効果推定値を確認した。

主な結果: 

31件のRCTを特定し、そのうち15件(N = 1889)をレビューの対象とした。

対象とした試験のうち9件が視力を評価しており、そのうち6件が視覚誘発電位(VEP)、2件が縞視力カード(Teller acuity cards)、1件が両方を使用していた。4件が有益な効果を報告しているが、残りの5件にはそのような報告はなかった。3件のRCTによるメタアナリシスでは、12カ月時点でのスイープVEPにより測定した視力に有意な治療効果が示された(最小分離閾角度の常用対数(logMAR))(平均偏差(MD)-0.15、95%信頼区間(CI)-0.17 ~-0.13; I2 = 0; 3試験; N = 244)。一方、別の3件のRCTによるメタアナリシスでは、縞視力カードにより測定した12カ月時点の視力に有益な効果はなかった(cycles/degree)(MD -0.01、95% CI -0.12~0.11; I2 = 0; 3試験; N = 256)。視力に関する結果をGRADE解析したところ、エビデンスの全体的な質は低かった。

11件の試験が2年経過時またはそれ以前に神経発達への効果を測定していた。9件がベイリー乳幼児発達検査(Bayley Scales of Infant Development)第II版(BSID-II)を使用していたが、有益な効果を報告していたのはそのうち2件に過ぎなかった。メタアナリシスによれば、18カ月時点におけるBSID心的発達指標(Mental Developmental Index (MDI))スコア(MD 0.06、95% CI -2.01〜2.14; I2= 75%; 4試験; N = 661)、および18カ月時点におけるBSID 心理運動発達指標(Psychomotor Development Index (PDI))スコア (MD 0.69、95% CI -0.78〜2.16; I2 = 61%; 4試験; N = 661)には、長鎖多価不飽和脂肪酸群とプラセボ群の間に有意差は認められなかった。結果から、1歳時および2歳時のBSID-IIスコアに有意な群間差は示されなかった。1件の試験が9カ月時点で乳児を対象としたFagan試験(Fagan Infant Test)により評価した新しい刺激を好む新規選好(novelty preference)に改善があったと報告している。別の試験は10カ月時点で問題解決能力の改善がみられたと報告している。1件の試験では、Brunet- Lezine早期乳児発達スケールを用いて発達指数を評価したが、有益な効果はなかった。複数の異なる試験が乳児の一部を3歳、6歳、9歳時まで追跡したが、長鎖多価不飽和脂肪酸の補充による有益な効果はなかった。以上の結果をGRADE解析したところ、全体的なエビデンスの質は低かった。

身体発育を評価した試験が13件あったが、補充による有益な効果および有害な効果のいずれも認められなかった。5件のRCTに対するメタアナリシスによれば、長鎖多価不飽和脂肪酸補充群の方が1 歳時の体重が少なかった(zスコア)(MD -0.23、95% CI -0.40 〜 -0.06; I2 = 83%; N = 521)が、身長と頭囲(zスコア)については有意差がなかった。18カ月および2年のいずれの時点でも、身長(cm)、体重(kg)および頭囲(cm)に関して有意な群間差は認められなかった。以上の結果をGRADE解析したところ、全体的なエビデンスの質は低かった。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2018.1.21]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。
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