うつ病では、落ちこんだ気分になる、あらゆる活動に対して無関心になり楽しいと感じなくなる、などの症状が2週間以上持続することが特徴である。セントジョーンズワート抽出物(学名Hypericum perforatum L.)はうつ病の治療に広く処方されている。
うつ病患者5489名が参加した29件の研究のレビューを行った。これらの研究では、セントジョーンズワート抽出物とプラセボまたは標準的な抗うつ薬を4~12週間比較した。これらの研究はさまざまな国で実施され、複数の種類のセントジョーンズワート抽出物を用いて、大部分が軽度から中等度の症状を有する患者を対象にしていた。総合すると、試験で用いられたセントジョーンズワート抽出物はプラセボよりも優れており、標準的な抗うつ薬と同程度の効果を有し、標準的な抗うつ薬よりも副作用が少なかった。しかし、セントジョーンズワート抽出物の効果は、セントジョーンズワート製品の歴史が古く、医師が処方することも多いドイツ語圏で実施された研究において、より優れた結果が得られ、他国で実施された研究では、それより効果が低いようであった。この相違は、対象としたうつ病の種類がやや異なっていたことが原因の可能性もあるが、ドイツ語圏で実施された比較的小規模な研究に不備があり、楽観的すぎる結果を報告した可能性が否定できない。
うつ病の症状を有する患者がセントジョーンズワート製品の使用を検討するときは医療従事者に相談すべきである。セントジョーンズワートを使用する根拠は示されたが、次の重要な問題を考慮すべきである。本レビューの結果は、本レビューで対象とした試験で使用された製剤にのみ適用できるが、同様の特徴を持つセントジョーンズワート抽出物にも適用できる可能性がある。セントジョーンズワート抽出物の副作用は通常軽度で、発生もまれである。しかし、他の薬物の作用を著しく阻害する可能性がある。
本レビューで対象とした試験で使用されたセントジョーンズワート抽出物は、a)大うつ病の患者に対し、プラセボと比較して優れている、b)標準的な抗うつ薬と同程度の効果を有する、c)標準的な抗うつ薬と比較して有害作用が少ないことが、入手可能なエビデンスから示唆される。原産国および処方と効果量の精度の関連は解釈が難しい。
一部の国では、Hypericum perforatum L.(一般名:セントジョーンズワート、和名:セイヨウオトギリソウ)からの抽出物がうつ症状の治療に広く用いられている。
大うつ病に対するセントジョーンズワート抽出物の効果がプラセボと比較して高いかどうか、また、標準的な抗うつ薬と同程度の効果を有するかを検討すること。また、標準的な抗うつ薬と比較して有害作用が少ないかどうかを検討すること。
関連論文の参考文献を確認し、製造者や研究者に問合せを行って、電子データベースから試験を検索した。
(1)ランダム化二重盲検試験、(2)大うつ病患者が対象、(3)セントジョーンズワート抽出物をプラセボまたは標準的な抗うつ薬と比較、(4)うつ症状を評価した臨床アウトカムを含む。
2名以上のレビューアがそれぞれ研究報告から情報を抽出した。有効性を評価する主要なアウトカム指標は、レスポンダーレート比(治療に対する反応の相対リスク)であった。有害作用の主要なアウトカム指標は、有害作用に起因する脱落者数であった。
プラセボとの比較試験18件および標準的な合成抗うつ薬との比較試験17件を含む計29件(患者5489名)の試験が選択基準を満たしていた。プラセボ対照試験の結果は著しい異質性が認められた。セントジョーンズワート抽出物とプラセボを比較したレスポンダーレート比(RR)は、比較的大規模な試験9件を統合した場合1.28 (95% 信頼区間(CI), 1.10〜1.49)、比較的小規模の試験9件を統合した場合1.87 (95% CI, 1.22〜2.87)であった。セントジョーンズワート抽出物と標準的な抗うつ薬を比較した試験の結果は統計学的同質性が認められた。三環系抗うつ薬または四環系抗うつ薬、および選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)と比較した場合のRRはそれぞれ1.02 (95% CI, 0.90 〜1.15; 5試験)および1.00 (95% CI, 0.90 〜1.11; 12試験)であった。プラセボ対照試験および標準的な抗うつ薬との比較試験のいずれも、ドイツ語圏で実施された試験においてセントジョーンズワートに有利な結果が報告された。セントジョーンズワート抽出物を投与した患者のうち、有害作用が原因で試験を脱落した患者の割合は、古典的抗うつ薬 (オッズ比(OR) 0.24; 95% CI, 0.13〜0.46)またはSSRI(OR 0.53, 95% CI, 0.34〜0.83)を投与した患者よりも少なかった。
《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2017.11.15]
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