末梢神経ブロックとは何か?
末梢神経ブロック(PNB)は、局所麻酔薬を神経の近くに注射して、脳への痛み信号を遮断するものである。PNBは単独でも、他の鎮痛剤と併用しても使用できる。1回の注射で投与する場合と、カテーテル(点滴)を使って連続的に投与する場合がある。
なぜこの疑問が重要なのか?
股関節骨折は高齢者に多く見られる。通常、骨を修復するためには手術が必要である。股関節の骨折は強い痛みを伴う。強い鎮痛剤であるモルヒネなどのオピオイドは、股関節骨折の痛みを抑えるためによく使われる。しかしながら、高齢者は高用量のオピオイドにうまく耐えられない。また、股関節を骨折した人は、錯乱状態、心筋梗塞、肺炎などの合併症を起こす可能性がある。
PNBは、オピオイドの使用を減らし、より効果的に痛みを抑えることで、股関節を骨折者した人が早く動けるようになり、合併症のリスクを減らすことができるかもしれない。
何を知りたかったのか?
PNBを使用することで、神経ブロックを行わない場合(全く行わないか、プラセボ(偽)の神経ブロックを行う場合)と比較して、股関節を骨折した人において以下の項目が減らせるかどうかを知りたかった。
- 動いた時の痛み;
- 錯乱、心筋梗塞、肺炎;
- 6ヶ月以内の全死亡;
- 手術後、動けるようになるまでの期間;および
- 痛みを抑えるための薬の費用。
何をしたか?
股関節を骨折した人の痛みに対するPNBの使用について、有効な神経ブロックを使用しない場合(すなわち、神経ブロックを全く使用しない場合やプラセボの神経ブロックを使用する場合)と比較した研究を医療データベースで検索した。研究参加者が16歳以上で、股関節を骨折していることを組み入れ条件とした。治療法を無作為に決定するランダム化比較試験(RCT)を探した。
検索結果
対象となったのは49件、3061人の参加者(平均年齢59~89歳)で、1553人がPNBを受け、1508人がPNBを受けなかった。必要に応じて、オピオイドを含む追加の鎮痛剤がすべての参加者に提供された。研究はさまざまな国で行われ、1980年から2020年の間に発表された。26件の研究が営利目的ではない資金提供を受けており、その他の研究については資金源が明記されていなかった。
主な結果
PNBは、神経ブロックを行わない場合と比較して、動いた時の痛みを10段階評価で2.5減少させた(11件の研究、503人の参加者)。PNBは錯乱のリスクを減少させた。PNBを使用すると、股関節を骨折した人12人あたり、錯乱する人が1人減少する(13件の研究、1072人の参加者)。心筋梗塞のリスクに差は見られなかった(1件の研究、31人の参加者)。
PNBはおそらく、肺炎のリスクを低減し(3件の研究、131人の参加者)、術後最初に動けるまでの時間を11時間短縮した(3件の研究、208人の参加者)。6ヵ月以内の全死亡に差は見られなかった(11件の研究、617人の参加者)。痛みの管理に使用される薬剤の費用は、PNBを1回注射する場合は、PNBを行わない場合と比較してわずかに低かった(1件の研究、75人の参加者)。
結果の信頼性は?
動いた時の痛みの軽減と錯乱の軽減に関するエビデンスの信頼度(確実性)は高く、肺炎の軽減に関するエビデンスの信頼度は中程度であった。しかし、心筋梗塞、死亡、最初に動けるまでの時間、痛みの管理に使用した薬剤の費用に関するエビデンスについては、主に参加者が少ない小規模な研究から得られたものであるため、信頼度が相対的に低い。
この結果が意味すること何か?
股関節を骨折した患者におけるPNBの使用を支持する、十分に質の高いエビデンスが示された。心筋梗塞や死亡に対するPNBの効果を明らかにするには、より大規模な研究が必要である。
このレビューの更新状況
このレビューはアップデート版である。エビデンスは2019年11月16日までのものである。
《実施組織》 杉山伸子 翻訳、井上円加 監訳[2021.10.09] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD001159.pub3》