急性心筋梗塞に対するマグネシウム静脈内投与

著者の結論: 

出版バイアスおよび治療効果の著しい異質性の可能性のために、所見を慎重に解釈することが必須である。今回レビューしたエビデンスから、次のように考える。(1)早期に投与された患者および晩期に投与された患者ならびにすでに血栓溶解療法を受けていた患者では、死亡率を低下させる上でマグネシウムが有益である可能性は低い。(2)高用量(75mmol以上)で用いた場合にはマグネシウムが死亡率を低下させる可能性は低い。(3)マグネシウム投与により心室細動、心室性頻拍、治療を要する重度の不整脈すなわちラウン分類2~5の出現の頻度は低下する可能性があるが、重度の低血圧、徐脈および潮紅の頻度は上昇する可能性がある。(4)マグネシウムが死亡率におよぼす影響について不確定の領域は、低用量(75mmol未満)投与の影響および、血栓溶解療法を受けていない患者に対する影響である。

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背景: 

急性心筋梗塞(AMI)の死亡率および罹病率は依然として高い。AMI発症早期のマグネシウム静脈内投与開始は、有望な補助療法であると考えられている。初期の試験およびメタアナリシスから得られた結果は相反するものであることから、利用可能なエビデンスをシステマティックにレビューする必要がある。

目的: 

AMI早期の死亡率および罹病率に対するマグネシウム静脈内投与の影響をプラセボと比較して検討する。

検索戦略: 

CENTRAL(コクラン・ライブラリ2006年第3号)、MEDLINE(1966年1月~2006年6月まで)およびEMBASE(1980年1月~2006年6月まで)ならびにChinese Biomedical Disk(CBM disk)(1978年1月~2006年6月まで)を検索した。心血管分野に関連する中国の幾つかの主要医学雑誌をその創刊日から2006年の前半半年までハンドサーチした。

選択基準: 

ルーチンの治療に加えて線維素溶解療法実施下または非実施下のマグネシウム静脈内投与とプラセボとを比較したすべてのランダム化比較試験を、AMI発症から35日以内の死亡率および罹病率が報告されている場合に適格とした。

データ収集と分析: 

2名のレビューアが別々に標準書式を用いて試験の質を評価し、データを抽出した。適切な場合は効果を統合するためにオッズ比(OR)を用いた。効果に異質性が認められる場合は、その臨床的原因および方法論的原因を探求した。

主な結果: 

効果に異質性のエビデンスがある場合の早期死亡率について、固定効果モデルによるメタアナリシスでは、マグネシウム群とプラセボ群との間に差は示されなかったが(OR0.99、95%CI0.94~1.04)、ランダム効果モデルによるメタアナリシスではマグネシウムをプラセボと比較して有意な低下が示された(OR0.66、95% CI0.53~0.82)。治療時期(6時間未満、6時間以上)による層別化により異質性は減少し、固定効果モデルおよびランダム効果モデルともにマグネシウムの有意な効果は認められなかった。層別解析では、プラセボ群と比較したマグネシウム群において、血栓溶解療法を受けなかった患者(ランダム効果モデルでOR=0.73、95% CI0.56~0.94)および75mmol未満のマグネシウムを投与された患者(OR=0.59、95% CI0.49~0.70)で早期死亡率が低下した。効果に異質性のエビデンスがない場合の副次的アウトカムについてのメタアナリシスでは、マグネシウムをプラセボと比較し、心室細動のオッズの低下が示されたが(OR=0.88、95% CI0.81~0.96)、重度の低血圧(OR=1.13、95% CI1.09~1.19)および徐脈(OR=1.49、95% CI1.26~1.77)のオッズは上昇した。心ブロックについては差を認めなかった(OR=1.05、95% CI0.97~1.14)。効果に異質性のエビデンスがある場合のこれらのアウトカムについて、固定効果モデルおよびランダム効果モデルを用いたメタアナリシスではともに、プラセボと比較してマグネシウムにより心室性頻拍(固定効果モデルではOR=0.45、95% CI0.31~0.66;ランダム効果モデルではOR=0.40、95% CI0.19~0.84)および治療を要する重度の不整脈またはラウン分類2~5(固定効果モデルではOR=0.72、95% CI0.60~0.85;ランダム効果モデルではOR=0.51、95% CI0.33~0.79)が減少し得ることが示された。2群の間で心原性ショックに対する効果に差はなかった。

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