背景:変形性関節症とは何か、そして薬草療法とは何か。
変形性関節症(OA)は関節の疾患である(多くの場合、膝、臀部、手)。関節が軟骨を失うと、その損傷を修復するために骨が増殖する。しかし、骨が異常に増殖することによって、事態は改善するどころか、悪化する。たとえば、骨が異常な形になって関節が痛み、動きが制限されることもある。OAは身体機能、特に関節の機能に影響を及ぼす。
薬草療法は、植物の地上部や地下部をはじめ、他の植物原料やその混合物を活性成分として含有し、未精製の状態または生薬製剤(たとえば、抽出エキス、オイル、チンキ)として完成品となり、ラベルが添付された医薬品であると定義される。
研究の特性
このコクラン・レビューの更新の要約では、変形性関節症患者が経口で摂取する薬草療法の効果に関する研究から、何がわかったかを提示する。関連のある研究を2013年8月まで検索し、最後のレビュー以降の試験45件を新たに採用して計49件となった。これらの試験では、ほとんどが膝または股関節に軽度から中等度の症候性変形性関節症のある5980例を対象に、33種類の薬草による介入が検討されていた。33種類もの薬用植物製品がプラセボまたは実薬介入の対照群と比較検討され、比較の多くが1件のみの試験であったことから、今回は、多くの試験が実施されていたボスウェリアセラータ(単一薬草)およびアボカド-ダイズ不けん化物(ASU)(2種類の薬草の混合)製品の試験結果に限って報告した。
主な結果
ボスウェリアセラータ
0~100ポイントのスケールによる疼痛(スコアが低いほど痛みが小さい)
-ボスウェリアセラータの濃縮抽出エキス100 mgを用いた患者は、プラセボに比べて、90日の時点で自らの疼痛を17ポイント(範囲8~26ポイント)低く評価した(17%の絶対的改善)。
-ボスウェリアセラータの濃縮抽出エキス100 mgを用いた患者は、自らの疼痛を23ポイントと評価した。
-プラセボ製剤を用いた患者は、自らの疼痛を40ポイントと評価した。
0~100ポイントのスケールによる身体機能(スコアが低いほど身体機能が良好)
-ボスウェリアセラータの濃縮抽出エキス100 mgを用いた患者は、プラセボに比べて、90日の時点で自らの身体機能を100ポイントのスケールで8ポイント(2~14ポイント)高く評価した(8%の絶対的改善)。
-ボスウェリアセラータの濃縮抽出エキス100 mgを用いた患者は、自らの身体機能を25ポイントと評価した。
-プラセボを用いた患者は、自らの身体機能を33ポイントと評価した。
アボカド-ダイズ不けん化物(ASU)製品Piascledine®
0~100のスケールによる疼痛(スコアが低いほど痛みが小さい)
-ASU 300 mgを用いた患者は、プラセボに比べて、3~12カ月の時点で自らの疼痛を100ポイントのスケールで8ポイント(範囲1~16ポイント)低く評価した(8%の絶対的改善)。
-ASU 300 mgを用いた患者は、自らの疼痛を33ポイントと評価した。
-プラセボを用いた患者は、自らの疼痛を41ポイントと評価した。
0~100 mmのスケールによる身体機能(スコアが低いほど身体機能が良好)
-ASU 300 mgを用いた患者は、プラセボに比べて、3~12カ月の時点で自らの身体機能を100 mmのスケールで7 mm(範囲2~12 mm)高く評価した(7%の絶対的改善)。
-ASU 300 mgを用いた患者は、自らの身体機能を40 mmと評価した。
-プラセボを用いた患者は、自らの身体機能を47 mmと評価した。
エビデンスの質
変形性関節症患者では、ボスウェリアセラータによって疼痛および機能がわずかに改善したことを示す質の高いエビデンスがある。さらに研究を実施しても、この評価が変わるとは考えにくい。
アボカド-ダイズ不けん化物(ASU)によって、疼痛および機能がわずかに改善する可能性は高いが、関節裂隙は保たれないかもしれないことを示す中等度の質のエビデンスがある。この評価は、今後の研究によって変わる可能性がある。
これ以外の経口薬草製品が、変形性関節症の疼痛および機能を改善したり、関節構造の損傷の進行を遅らせたりするかどうかは、入手できたエビデンスが、単一の試験や、統合することができない試験に限られており、しかもこのような試験の一部の質が、低いあるいはきわめて低かったため、確かではない。QOLは評価されていなかった。
薬草療法は副作用を引き起こす可能性があるが、そのリスクが高いかどうかはわからない。
ASU専売製品Piasclidine®の変形性関節症の症状の治療に関するエビデンスは、短期間の使用では中等度ないし高いように思われるが、長期にわたる研究や、明白に活性のある実対照薬に対しては、それほど説得力はない。ボスウェリアセラータ抽出エキスなど、他の薬用植物製品のいくつかは有益である傾向が認められ、有害事象のリスクも低いように思われることを考慮すると、さらに検討を続けるのが妥当である。
Piasclidine®が関節の構造を有意に改善するというエビデンスはなく、Piasclidine®が関節裂隙の狭小化を予防することを示すエビデンスも限定的なものであった。Piasclidine®以外の薬草による介入では、構造の変化は検査されていなかった。
有害事象を引き起こすことなく、臨床的利益をもたらす1日の至適用量を明らかにするために、今後の研究が必要である。
薬用植物製品が変形性関節症の治療に経口投与で使用されている。その作用機序は未だ十分には解明されていないが、一般的な炎症性メディエータとの相互作用が、これらの製品を変形性関節症の症状の治療に用いる拠となっている。
変形性関節症の治療における経口薬用植物製品の利益と有害性を評価するために、前回のコクラン・レビューを更新すること。
2013年8月29日までの電子データベース(CENTRAL、MEDLINE、EMBASE、AMED、CINAHL、ISI Web of Science、World Health Organization Clinical Trials Registry Platform)を、言語の制限を設けずに検索し、さらに検索れた試験の参考文献リストも検索した。
変形性関節症患者を対象に、薬草の経口投与による介入をプラセボまたは実対照薬と比較したランダム化比較試験を選択した。薬草による介入では、植物製剤の種類は問わなかったが、ホメオパシーおよびアロマテラピーの製品や合成由来製剤は除外した。
2名の著者が、標準的な方法を用いて試験の選択およびデータの抽出を行った。主要なアウトカム(疼痛、機能、X線上の関節変化、QOL、有害事象による中止例、総有害事象および重篤な有害事象)は、GRADEアプローチを用いて全体的なエビデンスの質を評価した。
49件のランダム化比較試験(介入33種類、参加者5980例)を採用した。17件の検証的デザインの(サンプルサイズおよび効果サイズを予め設定した)研究は、バイアスのリスクが概ね中等度であった。残る32件の探索的デザインの研究は、バイアスのリスクがさらに高かった。介入の種類がさまざまであったため、メタアナリシスの対象は、ボスウェリアセラータ(単一薬草)およびアボカド大豆不鹸化物(ASU)(2種類の薬草の混合)の製品に限定した。
ボスウェリアセラータの3種類の抽出エキスについての5件の研究を採用した。2件の研究(参加者85例)から得られた質の高いエビデンスによると、ボスウェリアセラータの濃縮抽出エキス100 mgを90日間投与した場合、プラセボに比べて症状が改善されることが示された。疼痛の平均は、0~100のVASスケール(0は痛みなし)で、プラセボ群では40ポイントであったが、濃縮ボスウェリアセラータによって疼痛が平均17ポイント減少した(95%信頼区間(CI)8~26)。更に有益なアウトカムを得るための治療必要数(NNTB)は2であった。 この95%CIは、臨床的に有意な疼痛軽減の指標である15ポイントを除外するものではなかった。身体機能は、Western Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index(WOMAC)の0~100ポイント(0は機能喪失なし)の下位尺度で、プラセボ群では33ポイントであったが、濃縮ボスウェリアセラータによって機能が8ポイント改善した(95%CI 2~14)。NNTBは4であった。臨床的に重要な最小限の差を10ポイントと仮定すると、一部の人に臨床的に重要な利益がある可能性を否定できない。中等度の質のエビデンス(研究1件、参加者96例)では、濃縮ボスウェリアセラータによって有害事象が減少する可能性が高いことが示された(18/48件に対して、プラセボでは30/48件;相対リスク(RR)0.60、95%CI 0.39~0.92)。このほかのボスウェリアセラータ抽出エキスの利益がプラセボに優る可能性が、ボスウェリアセラータ(濃縮)100 mg+不揮発性油の試験2件(参加者97例)の中等度の質のエビデンス、さらに、ボスウェリアセラータ抽出エキス1日用量999 mgおよび濃縮ボスウェリアセラータ1日用量250 mgの小規模試験それぞれ1件の質の低いエビデンスで確認された。 ボスウェリアセラータ1日用量99 mgの利益がバルデコキシブに優るかどうかは、小規模研究1件のきわめて質の低いエビデンスであったため、明確ではなかった。ボスウェリアセラータ抽出エキスによって有害事象や中止のリスクが高くなるかどうかは、研究間で結果の報告にバラツキが認められたため、明確ではなかった。それらの研究からは重篤な有害事象の報告はなかった。QOLおよび X線上の関節変化は評価されていなかった。
6件の研究がASU製品Piasclidine®を検討していた。4件の研究(参加者651例)による中等度の質のエビデンスからは、ASU 300 mgの3~12カ月の投与によって、プラセボに比較して、臨床的に疑問の余地のある改善が症状にわずかにもたらされ、有害事象は増加しない可能性が高いことが示された。疼痛の平均は、0~100のVASスケール(0は痛みなし)でプラセボ群では40.5ポイントであったが、ASU 300 mgによって疼痛が平均8.5ポイント減った(95%CI 1~16)。NNTBは8であった。ASU 300 mgは機能を改善した(標準化平均差(SMD)0.42、95%CI -0.73~-0.11)。機能評価は、プラセボ群では47 mm(0~100 mmのスケール、0は機能喪失なし)であったが、ASU 300 mgによって機能が平均7 mm改善した(95%CI 2~12 mm);NNTBは5(3~19)であった。ASU(53%)とプラセボ(51%)の有害事象(研究5件、参加者1050例)(RR 1.04、95%CI 0.97~1.12)、ASU(17%)とプラセボ(15%)の有害事象による中止(研究1件、参加者398例)(RR 1.14、95%CI 0.73~1.80)、およびASU(40%)とプラセボ(33%)の重篤な有害事象(研究1件、参加者398例)(RR 1.22、95%CI 0.94~1.59)に群間差はなかった。2件の研究(参加者453例)では、関節裂隙幅(JSW)の変化の測定値を指標としたX線上の関節変化が、ASU 300 mg投与(-0.53 mm)とプラセボ(-0.65 mm)の間で差はなかった。平均差 -0.12(95%CI -0.43~0.19)。1件の研究(参加者156例)による中等度の質のエビデンスによって、ASU 600 mgの利益がプラセボに優る可能性があることと、有害事象が増加しないことが確認された。質の低いエビデンス(研究1件、参加者357例)によって、ASU 300 mgとコンドロイチン硫酸の間で、症状および有害事象に差がない可能性が示された。QOLは評価されていなかった。
これ以外の薬草による介入は、それぞれ単一の試験であったため、結論には限界がある。どの植物製品も、関連が認められる重篤な副作用の報告はなかった。
《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2015.12.28]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。