癌患者におけるヤドリギ療法

セイヨウヤドリギ(Viscum album L.)製剤は、ヨーロッパの一部の国で癌患者にもっとも多く処方されている薬のひとつである。ヤドリギ製剤は癌患者の免疫系を刺激し、生存期間を延長し、生活の質を向上させ、化学療法や放射線療法の有害作用を軽減するといわれている。本レビューでは、これらのアウトカムに対する効果について明確な結論に達するにはエビデンスが不十分であるため、ヤドリギ抽出物の使用が症状コントロールの改善、腫瘍奏効の向上および生存期間の延長にどの程度有効であるかは不明であることが明らかになった。ヤドリギ抽出物の有害作用が報告されているが、用量依存性で、主に注射部位に限局した反応および軽度で一過性のインフルエンザ様症状が認められる。質の高い独立した試験が存在しないため、ヤドリギ抽出物が特定の問題に有益かどうかを決定するには、専門家の判断や実務的な側面を考慮する必要がある。

著者の結論: 

ヤドリギ抽出物の使用が生存期間に影響を与え、癌に対する抵抗力、または抗癌治療に耐える力が向上するという意見を支持する弱いエビデンスがRCTから得られている。ヤドリギ抽出物が乳癌の化学療法中におけるQOLに有益である可能性を示すエビデンスが存在するが、この結果は再現性を確認する必要がある。総じて、ヤドリギ抽出物の安全性および有効性に関する真の評価を行うためには、より質の高い独立した臨床研究が必要である。ヤドリギ療法を受ける患者は、今後の臨床試験への参加が推奨される。

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背景: 

ヤドリギ抽出物は癌患者に一般的に用いられている。ヤドリギは癌患者の生存期間を延長し、生活の質(QOL)を改善することができると主張されている。

目的: 

癌患者に対するヤドリギ抽出物の単剤療法または補助療法の有効性、忍容性および安全性を検討すること。

検索戦略: 

検索対象は、Cochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL, 2007年3号) Cochrane Complementary Medicine Field Registry of randomized clinical trials (RCTs) and controlled clinical trials、MEDLINE、EMBASE、HEALTHSTAR、INT. HEALTH TECHNOLOGY ASSESSMENT、SOMED、AMED、BIOETHICSLINE、BIOSIS、CancerLit、CATLINE、CISCOMであった(2007年8月)。

検索にはStandard Operating Procedures of the Information System in Health Economics at the German Institute for Medical Documentation and Information (DIMDI)を利用した。このほかの研究について、関連文献の参考文献リストおよび試験著者の所属・問合せ先一覧も検索した。ヤドリギ製剤の製造業者に問合せを行った。

選択基準: 

あらゆる種類の癌の成人患者を対象としたランダム化比較試験(RCT)を組み入れた。介入はヤドリギ抽出物の単独投与または化学療法や放射線療法との併用であった。アウトカム指標は、生存時間、腫瘍奏効、QOL、精神的苦痛、抗癌治療の有害作用およびヤドリギ抽出物の安全性であった。

データ収集と分析: 

3名のレビュー著者がそれぞれ本レビューに組み入れる試験を評価した。レビュー著者は全員それぞれデータ抽出を行い、研究の質および臨床的重要性を評価した。相違点は合意によって解決した。情報が不明の場合は、試験著者に問い合わせた。方法の質を叙述的に記録し、Delphi listおよびJadadスコアを用いてさらに評価した。Delphi基準9項目のうち6項目、またはJadadスケール5項目のうち4項目を満たしている場合に、方法の質が高いとみなした。結果は定性的に示した。

主な結果: 

80件の研究が同定された。さまざまな理由、主に前向き試験デザインではなく治療割付がランダム化されていなかったため、58件を除外した。対象とした21件のうち13件は生存期間、7件は腫瘍奏効、16件はQOL、心理的アウトカム、または化学療法に関連する有害作用発現率、12件はヤドリギ治療の有害な作用に関するデータが示されていた。ランダム化された癌患者は総計3484名であった。評価した介入は、5社が製造したヤドリギ抽出物5製剤および市販されていない1製剤であった。概してRCTの報告の質は低かった。

生存期間を調べた13件のうち、6件は有益なエビデンスが認められたが、方法の質が高い試験はなかった。メラノーマおよび頭頸部癌の患者を対象とした2件の試験の結果から、ヤドリギ抽出物は生存期間延長に有効ではないといういくつかのエビデンスが得られた。

QOL改善、心理的アウトカム、パフォーマンスインデックス、症状評価尺度または化学療法の有害作用軽減に対するヤドリギ抽出物の有効性を検討した16件の試験のうち、14件では有益なエビデンスが認められたが、そのうち化学療法中の乳癌患者を対象とした2件のみ方法の質が高かった。

副作用に関するデータから、用量にもよるが、ヤドリギ抽出物の忍容性は概ね良好で、副作用はほとんどないことが示唆された。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2018.1.28]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 
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