レビューの論点
マッカードル病に対する薬や栄養の有効性に関して、エビデンスに対するレビューを行った。
背景
糖原病V型としても知られるマッカードル病は、筋肉代謝が障害される疾患である。筋ホスホリラーゼという酵素が欠損するために引き起こされる。この酵素欠損によって、貯蔵された「燃料」であるグリコーゲンを分解することができなくなる。マッカードル病では、激しい運動時に痛みや疲労が認められる。重度の筋肉の損傷が起こることがあり、これによって、特に可逆性の急性腎不全が引き起こされる場合がある。
研究の特性
広範囲にわたって検索した結果、マッカードル病の参加者85例を登録したランダム化試験13件を特定した。本レビューは2004年発表のレビューの更新である。今回の更新では新たな試験は見つからなかった。
主要な知見およびエビデンスの質
D-リボース、グルカゴン、ベラパミル、ビタミンB6、経口分岐鎖アミノ酸、ダントロレンナトリウム、高用量クレアチンおよびラミプリルを用いた療法は、プラセボと比較して有益性が認められなかった。アンジオテンシン変換酵素(ACE)遺伝子多型のD/D型を併せもつ患者には、低用量クレアチンおよびラミプリルにわずかながら有益性が認められた。低用量のクレアチンの摂取が、マッカードル病のごく一部の人の運動耐容能にわずかに有益性が認められた。予定した激しい運動の前に糖分の多い飲み物を飲むと、運動能力が改善されることもあるが、これは日常生活のなかでは実用的な方法ではない。高炭水化物食の方が高蛋白食よりも優れていることが示唆されている。4件の試験で有害作用が報告された。リボースを経口摂取すると、浮遊感、空腹感および下痢など、低血糖を示唆する症状が引き起こされた。分岐鎖アミノ酸の1件の試験では、参加者の病状の悪化をもたらした。ダントロレンは、疲労、眠気、めまいおよび筋力低下など、多くの副作用を起こすことが報告された。低用量クレアチン(60 mg/kg/日)では副作用は生じなかったが、高用量クレアチン(150 mg/kg/日)では、筋肉痛の症状の悪化が認められた。取り上げた試験は、参加者が最も多い試験(1件)で19例、最も少なかったのは1例(1件)と、参加者が少なかったことから、質の低いものであった。
本エビデンスは2014年8月現在のものである。
クレアチン、経口ショ糖、ラミプリルまたは高炭水化物食療法によって数項目のパラメーターが改善することを示す質の低いエビデンスが認められたが、エビデンスは、有意な臨床的有益性を示すほど強固なものではなかった。
マッカードル病(糖原病V型)は、筋ホスホリラーゼの欠損によるもので、運動不耐性、ミオグロビン尿、横紋筋融解症および急性腎不全を来たす。本レビューは2004年発表のレビューの更新である。
マッカードル病患者の運動能力および生活の質を改善するために、薬物療法または栄養療法を実施したランダム化比較試験(RCT)のエビデンスを系統的に評価すること。
2014年8月11日にCochrane Neuromuscular Disease Group Specialized Register、CENTRAL、MEDLINEおよびEMBASEを検索した。
クロスオーバー試験を含むRCTおよび準RCTを採用した。非盲検オープン試験および登録患者が1人の試験は考察で言及した。介入は、あらゆる薬理作用がある薬剤や栄養剤とした。主要アウトカムの指標は、運動に対する耐久力(例えば、最大酸素摂取量[VO2 max]、歩行速度、筋力や筋仕事率および易疲労性など)の客観的評価とした。二次アウトカムの指標は、代謝性変化(血漿クレアチンキナーゼの低下、ミオグロビン尿の発症頻度の低下など)、主観的評価(生活の質のスコア、障害の指数など)および重篤な有害事象とした。
3人のレビュー著者が、検索により特定したタイトルおよびアブストラクトを調べ、原稿を評価した。2人のレビュー著者が、関連性のある試験のバイアスのリスクを独立して評価し、3人目の著者が意見を述べた。2人の著者がデータを抽出し、特別に考案された形式のものに記載した。
31件の試験を特定し、13件を適格と判定した。レビューの適格基準を満たさなかった試験は考察に記載した。採用した試験の参加者は計85例であったが、各々の試験は小規模であった。最も規模の大きい介入試験で19例、最も規模の小さい試験では参加者がわずか1例であった。D-リボース、グルカゴン、ベラパミル、ビタミンB6、分岐鎖アミノ酸、ダントロレンナトリウムおよび高用量クレアチンを用いた療法に有益性は認められなかった。アンジオテンシン変換酵素(ACE)遺伝子多型のD/D型を有する患者に限って、低用量クレアチンおよびラミプリルを用いた療法で、主観的有益性がわずかに認められた。高炭水化物食は、高蛋白食に比較して運動能力の改善が認められた。運動の前に、異なるタイミングと異なる用量でショ糖を経口投与した試験2件では、運動能力の改善が示された。。4件の試験で有害事象が報告された。リボースの経口投与は、下痢および浮遊感や空腹感などの低血糖が疑われる症状を惹起した。1件の試験では、分岐鎖アミノ酸が機能的アウトカムの悪化を招いた。ダントロレンが、疲労、傾眠、めまいおよび筋力低下をはじめとする多くの有害事象を引き起こすことが報告された。低用量クレアチン(60 mg/kg/日)では副作用が惹起されなかったが、高用量クレアチン(150 mg/kg/日)は筋肉痛の症状を悪化させた。
《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2015.12.29]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。