HIVに感染した妊娠していない成人に対する微量栄養素の補充

コクランの研究者は、HIV感染者に対する微量栄養素の補充の効果について、レビューを実施した。本稿は2010年に発表したコクラン・レビューの更新である。レビュー著者が関連性のある試験を2016年11月18日まで調べ、33件の試験を選択した。このうち13件はHIVの治療をしていない人を対象にタイ、ペルー、およびアフリカ8カ国で実施された。19件はHIVの治療をしている人を対象に北米、欧州、ブラジル、シンガポール、タイ、ボツワナ、ウガンダで実施された。HIV感染者を対象に中国で実施された1件では、治療の有無に関する記載がなかった。複数の微量栄養素の補充による効果を調べた試験もあれば、1種類のビタミンやミネラルの補充について調べた試験もあった。

微量栄養素のサプリメントとは何か?HIV感染者にどのように役立つ可能性があるのか?

微量栄養素のサプリメントは、健康に必要なビタミンやミネラル、もしくはその両方を含む。これらのビタミンの多くは、ヒトの免疫系の維持に重要な役割を果たし、感染と闘うのに役立つ。

HIV感染は免疫系の進行性破壊を引き起こすため、感染を繰り返しやすくなる。また、特に低所得国では、多くのHIV感染者に栄養不良がみられ、必須微量栄養素が不十分な食事を摂取している。そのため、補充によってHIV感染者の免疫系を強化したり、感染からの回復を促進したりすることで、より長く健康を維持するのに役立つ可能性がある。

本研究が示すもの

複数の微量栄養素

抗レトロウイルス薬の使用の有無を問わず、HIV感染者に複数のビタミンやミネラルを含むサプリメントを毎日提供しても、死亡を減らす効果はほとんど、もしくはまったくないと考えられる(エビデンスの確実性は低い)。毎日補充しても、HIVの疾患進行の指標となるCD4細胞数(エビデンスの確実性は低い)やHIVウイルス量(エビデンスの確実性は中等度)に対する効果はほとんど、もしくはまったくないと考えられる。

1種類または2種類の微量栄養素

1種類のビタミンやミネラルを含むサプリメントがHIV感染者の死亡を減らすのか(エビデンスの確実性は極めて低い)、疾患進行を遅らせるのか(エビデンスの確実性は低い/極めて低い)については不明である。ビタミンA、ビタミンD、亜鉛、またはセレンの補充は、特に各ビタミンの血中濃度が低い人で、血中濃度を改善する可能性がある(エビデンスの確実性は低い/中等度)。

これらの知見は、十分な食事の摂取はHIV感染者にとって重要ではない、ということを意味するものではない。また、欠乏症であることが臨床的に明らかな人や、ビタミン・ミネラル摂取量が1日当たりの推奨所要量に満たない人において、微量栄養素の補充を否定する理由にはならない。

著者の結論: 

得られた試験の解析では、HIV感染者に対する複数の微量栄養素のルーチン補充について、一貫性のある臨床的に重要な利益は明らかにされなかった。より大規模な試験で、わずかだが重要な影響が明らかになる可能性もある。

特定の栄養素が欠乏しているHIV感染者や、食事からのビタミン・ミネラル摂取量が1日当たりの推奨所要量に満たないHIV感染者において、これらの知見を、微量栄養素の補充を否定する要因として解釈すべきではない。

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背景: 

微量栄養素の不足はHIVの成人に多く、特に低所得者では食事に含まれる必須ビタミン・ミネラルが少ない場合がある。微量栄養素のなかには免疫系の維持に重要な役割を果たすものがあるため、ルーチン補充が有益な可能性がある。本稿は2010年に発表したコクラン・レビューの更新である。

目的: 

HIV陽性の成人(妊婦を除く)における死亡率およびHIV関連の罹病率を低下させるうえで、微量栄養素の補充の有効性と安全性を評価すること。

検索戦略: 

微量栄養素の補充に関するランダム化比較試験(RCT)について、前回のレビューでは2009年までのあらゆる試験を調べて同定したので、今回は2010年1月から2016年11月18日までについて新規の論文を探した。CENTRAL(コクラン・ライブラリ)、Embase、およびPubMedのデータベースを検索した。また、世界保健機関(WHO)International Clinical Trials Registry Platform(ICTRP)、およびClinicalTrials.govの臨床試験登録を調べた。さらに、新たに選択した試験の参考文献リストをチェックした。

選択基準: 

1種類、2種類、または複数の微量栄養素を含むサプリメントとプラセボ、無治療、または他のサプリメントを比較するRCTを選択した。高活性抗レトロウイルス療法(HAART)による代謝疾患のあるHIV陽性患者の治療において、微量栄養素の役割を調べることを主な目的とした研究は除外した。主要アウトカムは全死因死亡率、罹病率、および疾患進行とした。

データ収集と分析: 

2名のレビュー著者がそれぞれ試験を選択し、バイアスのリスクを評価した。可能であれば、2変数のリスク比(RR)、イベントまでの時間のハザード比(HR)、および連続変数の平均差(MD)に、95% 信頼区間(CI)を付した結果を記載した。統合できないアウトカムデータについては、それぞれの比較を表にまとめた。GRADE法により、エビデンスの確実性を評価した。

主な結果: 

10,325例を対象とした33件の試験を選択し、そのうち17件が新規の試験であった。10件の試験では複数の微量栄養素を含むサプリメントについて、食事摂取基準の20倍までの用量で毎日摂取する場合とプラセボを比較し、1件の試験ではマルチビタミンの1日の用量について標準用量と高用量を比較した。19件の試験では1種類または2種類の微量栄養素を含むサプリメント(ビタミンAとビタミンD、亜鉛、セレン)とプラセボを比較し、3件の試験では微量栄養素について異なる用量や組み合わせを比較した。

複数の微量栄養素

抗レトロウイルス療法(ART)を受けていない成人(3件の試験、1448例)、抗レトロウイルス療法(ART)を受けている成人(1件、400例)、およびARTを受けておらず活動性結核を併発する成人(3件、1429例)について解析した。複数の微量栄養素のルーチン補充はHIVの成人の死亡率にほとんど、もしくはまったく影響しないと考えられる(RR 0.91、95% CI 0.72~1.15、7件の試験、2897例、エビデンスの確実性は低い)。

最長2年のルーチン補充は以下に対してほとんど、もしくはまったく影響を与えないと考えられる。平均CD4+ 細胞数の平均:MD 26.40 cells/mm³、95% CI −22.91~75.70、6件の試験、1581例、確実性の低いエビデンス。平均ウイルス量の平均:MD −0.1 log10 ウイルスコピー数、95% CI −0.26~0.06、4件の試験、840例、エビデンスの確実性は中等度。ARTを受けていない成人を対象にボツワナで行った1件の新規試験では、2年間の高用量補充により、CD4+ 細胞数が250 cells/mm³ 未満になるまでの時間が長くなることを報告した(HR 0.48、95% CI 0.26~0.88、1件の試験、439例)。しかし、試験の著者らは、この効果がみられたのは複数の微量栄養素とセレンを補充した群のみで、単独群ではみられなかったと報告しており、微量栄養素とセレンを併用した他の試験の結果と矛盾する。

ARTを受けている人を対象に、複数の微量栄養素について高用量と標準用量を比較した1件の新規試験では、高用量群で標準用量群よりも末梢神経障害が少なかったが(罹患率(IRR)0.81、95% CI 0.7 ~0.94、1件の試験、3418例)、高用量群で有害事象(アラニントランスアミナーゼ(ALT)値の上昇)が増加したため、この試験は早期に中止された。

1種類または2種類の微量栄養素

1種類または2種類の微量栄養素の補充に関する試験で、死亡率や罹病率のアウトカムに対する効果を評価するのに十分な検出力を有する試験はなかった。以下について臨床的に意味のある変化は報告されなかった。CD4 細胞数:14件の試験データは統合せず、2370例、エビデンスの確実性は低いまたは極めて低い。ウイルス量:7件の研究データは統合せず、1334例、エビデンスの確実性は低いまたは極めて低い。補充によりビタミンDと亜鉛の血中濃度はおそらく増加すると考えられる(データは統合せず、ビタミンD:4件の試験、299例、亜鉛:4件の試験、484例、エビデンスの確実性は中等度)。補充によりビタミンDと亜鉛の血中濃度はおそらく増加すると考えられる(データは統合せず、ビタミンD:4件の試験、299例、亜鉛:4件の試験、484例、エビデンスの確実性は中等度)。ビタミンAについても、特に不足している人では、補充により血中濃度が増加すると考えられる(3件の試験データは統合せず、495例、エビデンスの確実性は低い)。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2018.1.28]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 
CD003650 Pub4

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