重症の成人患者に対するセレン補充

セレンは健康に不可欠なミネラルである。組織障害や疾患に対する防御に重要な役割を果たす。重症の成人患者では、セレンの状態を改善することが、患者を守ることにつながる可能性がある。

今回更新したレビューでは、重症疾患から回復中の成人に対するセレン補充の効果について、コクランの研究者が評価した。治療中にセレンを補充することで死亡者数が変化するのかを調べた。また、入院中のこれらの患者について、セレン補充が感染率や他の疾患に与える影響をチェックした。セレンが人工呼吸器の使用期間、集中治療室の滞在期間、および入院期間に影響を与えるかについても調べた。

参加者2084名を対象とした16件の試験を選択した。13件の試験ではセレンについて調べ、3件の試験ではセレン含有化合物のエブセレンについて調べていた。選択した試験の質は全般的に低く、質の指標に関する情報がほとんどなかった。結果は限定的で、セレン補充に関するこれらの試験の多くが小規模なものであった。大部分の試験では、情報の不足や不正確性に関するリスクが高かった。したがって、結果の解釈には注意を要する。エビデンスは2014年5月21日までのものである。

亜セレン酸ナトリウムを静脈内投与した13件の試験では、死亡に対し統計学的に有意な効果がみられた。セレン含有化合物のエブセレンに関する3件の試験では、死亡に対する効果はみられなかった。感染症や続発性疾患に対する影響はみられなかった。

人工呼吸器の使用期間、集中治療室の滞在期間、入院期間、および生活の質について、セレンやエブセレンの補充による利益を示す明らかなエビデンスはなかった。統計学的に有意な所見であっても、セレン補充を支持するエビデンスの確実性の解釈には注意を要する。

研究結果について、全般的にエビデンスの質が低かった。本レビューで選択した試験の統計的不確実性(特にサンプル・サイズ、デザイン、アウトカム)を克服する試験が必要である。

著者の結論: 

多くの試験が発表されているが、重症患者にセレンやエブセレンの補充を推奨する最新のエビデンスについては、議論が続いている。本レビューで選択した試験の方法論的な不備(特にサンプル・サイズ、デザイン、アウトカム)を克服する試験が必要である。

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背景: 

セレンは健康に不可欠な微量ミネラルで、免疫、組織障害に対する防御、甲状腺機能に重要な役割を果たす。重症の成人患者では、セレンの状態を改善することが、高度の組織障害や感染を防ぐことにつながる可能性がある。本コクラン・レビューは2004年に初版が発表され、2007年、2015年に更新された。

目的: 

主要目的は、重症患者の死亡率に対するセレンまたはエブセレン補充の効果を調べることである。

副次目的は、セレンやエブセレンの補充と、感染数、人工呼吸器の使用期間、集中治療室の滞在期間、および入院期間との関連性を調べることである。

検索戦略: 

今回の更新にあたり以下を検索した。Cochrane Central Register of Controlled Trialsの最新号、コクラン・ライブラリ(2014年、第5号)、MEDLINE(Ovid SP、2014年5月20日まで)、EMBASE(Ovid SP、2014年5月20日まで)、CAB、BIOSIS、CINAHL。最新の総説の文献リストを手作業で検索し、MEDLINEの検索結果と照合した。選択した研究の主な著者に、欠測や未報告、継続中の研究について問い合わせた。最新の検索は2014年5月21日まで実施した。現在、開始から2014年5月21日までについて検索した。

選択基準: 

発表の有無、発表日、ブラインド化(盲検化)の有無、発表されたアウトカム、および言語を問わず、ランダム化比較試験(RCT)を選択した。治験責任医師や著者に連絡し、関連性のあるデータや欠測データを得た。

データ収集と分析: 

2名のレビュー著者が独自にデータを抽出し、相違について協議のうえ解決した。主要アウトカム指標は全死因死亡率とした。複数のサブグループ解析および感度解析を実施し、重症患者に対するセレンの効果を評価した。介入効果に関する統合推定値として、95% 信頼区間(CI)を付したリスク比(RR)を提示した。試験の方法論に関する評価によりバイアスのリスクを、逐次解析により偶然誤差のリスクを評価した。

主な結果: 

本レビューの更新に際し、6件の新規RCTを選択した。本レビューでは合計16件のRCT(2084例)を選択した。ほとんどの試験でバイアスのリスクが高かった。利用可能なアウトカムデータが限定的で、セレン補充に関する試験は、1件を除き、サンプル・サイズが小規模であった。したがって、結果の解釈には注意を要する。

亜セレン酸ナトリウムを静脈内投与した13件の試験では、総死亡率が統計学的に有意に低下した(RR 0.82、95% CI 0.72 ~ 0.93、1391例、エビデンスの質は極めて低い)。しかし、試験のバイアスのリスクが高いことが、死亡率の全般的な点推定値に影響を与えた。エブセレンに関する3件の試験のメタアナリシスでは、RRが0.83であった(95% CI 0.52 ~ 1.34、693例、エビデンスの質は極めて低い)。

亜セレン酸ナトリウムを静脈内投与した9件の試験では28日間の死亡率を解析し、統計学的な有意差はみられなかった(RR 0.84、95% CI 0.69 ~ 1.02、1180例、エビデンスの質は極めて低い)。一方、3件の試験では90日間の死亡率を解析し、同様の知見が得られた(RR 0.96、95% Cl 0.78 ~ 1.18、614例、エビデンスの質は極めて低い)。

エブセレンに関する2件の試験では90日間の死亡率を解析し、いかなる利益も認められなかった(RR 0.72、95% Cl 0.42 ~ 1.22、588例、エビデンスの質は極めて低い)。

集中治療患者の死亡率について、セレン補充による統計学的に有意な利益はみられなかった(RR 0.88、95% CI 0.77 ~ 1.01、9件の試験、1168例、エビデンスの質は極めて低い)。

亜セレン酸ナトリウムを静脈内投与した6件の試験では、感染症の発症について統計学的な有意差はみられなかった(RR 0.96、95% CI 0.75 ~ 1.23、934例、エビデンスの質は極めて低い)。同様に、エブセレンに関する3件の試験で、感染症の発症に関するデータが得られたが(発熱、呼吸器感染症、髄膜炎)、明白な利益はなかった(RR 0.60、95% CI 0.36 ~ 1.02、685例、エビデンスの質は極めて低い)。

我々の解析では、有害事象に対するセレンやエブセレンの影響はみられなかった(セレン:RR 1.03、95% Cl 0.85 ~ 1.24、6件の試験、925例。エブセレン:RR 1.16、95% CI 0.40 ~ 3.36、2件の試験、588例、エビデンスの質は極めて低い)。

以下のアウトカムについて、セレン補充を支持する明白なエビデンスはなかった。人工呼吸器の使用期間:平均差(MD) -0.86、95% CI -4.39 ~ 2.67、4件の試験、191例、エビデンスの質は極めて低い。集中治療室の滞在期間:MD 0.54、95% CI -2.27 ~ 3.34、7件の試験、934例、エビデンスの質は極めて低い。入院期間:MD -3.33、95% Cl -5.22 ~ -1.44、5件の試験、693例、エビデンスの質は極めて低い。

試験の方法論的な質は低かった。選択した試験ではバイアスのリスクが高いため、結果の解釈には注意を要する。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2018.1.28]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 
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