手術前の剃毛は手術後の感染症を予防できるか?

要点

剃毛しない場合と比較して:

- かみそり(剃刀)で毛を剃った場合の方が、手術部位感染の発生が多い可能性がある。

- サージカルクリッパー(バリカン)での剃毛やクリームを用いての除毛は、感染の発生にほとんど差はない。

サージカルクリッパー(バリカン)での剃毛や除毛クリームを用いての除毛は、かみそりで毛を剃るよりも、おそらく感染の原因になりにくい。

手術前日ではなく、手術当日に剃毛または除毛をすることにより、感染症の発生を少し抑制することができる。

なぜ手術前に剃毛するのか?

外科手術の前には、手術を受ける部位の毛を剃毛することが一般的である。サージカルクリッパー(バリカン)、カミソリ、除毛クリームなど、毛の処理は、さまざまな方法で行うことができる。

例えば、傷口を縫うときや包帯を巻くときなど、手術中や手術後のトラブルを避けるために毛を処理する。しかし、毛を剃ったり抜くことにより、術後の感染症が引き起こされる可能性があるので毛の処理は避けた方が良いとする研究もある。

何を知りたかったのか?

手術の前に剃毛することによって以下がどうなのかを知りたかった。

- 感染症の原因となるのか、予防となるのか;

- 皮膚の切り傷や縫合した傷口が開くなどの合併症を防ぐのか;

- 手術後の入院期間への影響はどうか;

- 費用面での影響はどうか。

また、剃毛や除毛の方法やいつ行うのかによって、良い場合とそうでない場合があるのかも知りたかった。

実施したこと

まず、以下の比較試験を検索した。

- 剃毛・除毛をする場合としない場合の比較;

- 剃毛・除毛の方法と時間が異なるものの比較。

結果を比較し、全ての研究結果から得られたエビデンスを要約した。最後に、研究方法や規模などの要因から、エビデンスの確実性の評価を行った。

わかったこと

合計8,919人を対象とした25件の研究を見つけた。

10件の研究では、剃毛・除毛する場合と、しない場合を比較した。

- サージカルクリッパー(バリカン)(3件);

- カミソリ(剃刀)での剃毛(8件、そのうち7件は利用可能なエビデンスあり);

- 除毛クリーム(1件)。

カミソリ(剃刀)とサージカルクリッパー(バリカン)を比較した研究が7件、カミソリ(剃刀)と除毛クリームを比較した研究が10件だった(この10件のうち9件は利用可能なエビデンスあり)。

ある研究では、手術の前日に剃毛する場合と、手術当日に剃毛する場合を比較している。

エビデンスは何を示しているのか?

剃毛・除毛する場合としない場合の比較

- サージカルクリッパー(バリカン)での剃毛や除毛クリームを用いての除毛は、手術部位の感染の発生にほとんど差はない。

- カミソリ(剃刀)での剃毛は、剃毛しない場合よりも感染症のリスクがおそらく高い。

カミソリ(剃刀)での剃毛する場合としない場合で、入院期間にほとんど差がない可能性がある(1件の研究)。

剃毛・除毛方法による比較

- サージカルクリッパー(バリカン)はカミソリ(剃刀)よりも、感染症の発生や皮膚損傷がおそらく少ない。

- 除毛クリームはカミソリ(剃刀)よりも、感染症の発生が少なく、皮膚損傷もおそらく少ない。

剃毛・除毛の時期

剃毛・除毛を手術当日に行うことで、前日に行うよりも、感染症の発生が若干減少する可能性がある(1件)。

まだ分かっていないこと

きちんとした研究が行われていないため、以下のことが分かっていない:

- 剃毛・除毛すると、しない場合に比べて、傷の合併症や費用に影響があるかどうか;

- 剃毛・除毛方法の違いが、入院期間や費用に与える影響が異なるかどうか;

- 剃毛・除毛の時期が、傷の合併症や入院期間、費用に影響するかどうか。

このレビューの更新状況

このコクランレビューのエビデンスは、2019年11月現在のものである。

訳注: 

《実施組織》増澤祐子、井上円加 翻訳 [2021.9.6] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクラン日本支部までご連絡ください。 なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD004122.pub5》

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