身体は健康に不可欠な化合物のすべてを合成できるわけではない。したがって、そのような化合物を食事から摂取する必要がある。酸化ストレスは、癌のような慢性疾患に関わる細胞傷害を引き起こすことがある。消化器癌は世界中でもっともよくみられる癌である。消化器癌と診断された患者の予後が不良であることから、一次予防が有望かつ魅力的な方法となった。消化器癌の減少における抗酸化サプリメントの有効性については、エビデンスに矛盾がある。
本レビューでは、食道、胃、小腸、大腸、膵臓、肝臓、および胆道の癌に対する、抗酸化サプリメントによる予防について評価した。本レビューでは20件のランダム化臨床試験を選択した。合計211,818例を、抗酸化サプリメント群(βカロテン、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、セレン)またはプラセボ群にランダムに割り付けた。試験の質は非常に良好であった。
適切なデザインで実施されたランダム化臨床試験によると、βカロテン、ビタミンA、ビタミンC、ビタミンE、もしくはそれらの併用が、消化器癌を予防する可能性を示す説得力のあるエビデンスはなかった。抗酸化サプリメント群に割り付けられた計95084例中2057例(2.2%)、およびプラセボ群に割り付けられた78935例中1548例(2.0%)が消化器癌を発症した。さらに、これらの抗酸化サプリメントは死亡率を増加させるとみられる。抗酸化サプリメント群に割り付けられた計122,501例中17114例(14.0%)、およびプラセボ群に割り付けられた78693例中8799例(11.2%)が死亡した。セレンの単独補充は消化器癌の予防効果をもつ可能性がある。しかし、この所見はデザインに不備のある試験によるものであり、適切なランダム化臨床試験を実施して確認する必要がある。
抗酸化サプリメントが消化器癌を予防することを示す説得力のあるエビデンスはなかった。逆に、抗酸化サプリメントは総死亡率を増加させるとみられる。癌に対するセレンの予防効果の可能性については、適切なランダム化試験を実施して検証すべきである。
酸化ストレスは消化器癌を引き起こす可能性がある。消化器癌の予防における抗酸化サプリメントの有効性については、エビデンスに矛盾がある。
消化器癌の予防における抗酸化サプリメントの有効性と有害性を評価すること。
消化器疾患に関する4つのクラン・レビューグループの試験登録、コクラン・ライブラリ(2007年第2号)のThe Cochrane Central Register of Controlled Trials、MEDLINE、EMBASE、LILACS、SCI-EXPANDED、およびThe Chinese Biomedical Databaseを開始から2007年10月まで検索し、試験を同定した。文献リストを調べ、製薬会社に連絡を取った。
消化器癌の発症について、抗酸化サプリメントとプラセボや非介入を比較したランダム化試験。
2名の著者(GBとDN)がそれぞれ試験を選択し、データを抽出した。アウトカム指標は消化器癌、総死亡率、有害作用とした。変量効果モデルおよび固定効果モデルによるメタアナリシスを実施し、95%信頼区間(CI)を付した相対リスク(RR)をアウトカムとして報告した。メタ回帰分析により、複数の試験で共変量の影響を評価した。
βカロテン(12件の試験)、ビタミンA(4件の試験)、ビタミンC(8件の試験)、ビタミンE(10件の試験)、およびセレン(9件の試験)について評価した20件のランダム化試験(211,818例)を選択した。試験の質は概ね高かった。異質性は低いものから中等度のものまであった。消化器癌に対する抗酸化サプリメントの有意な効果はみられなかった(RR 0.94、95% CI 0.83 ~ 1.06)。しかし、有意な異質性が認められた(I2 = 54.0%、P = 0.003)。異質性は、バイアスのリスクと、抗酸化サプリメントの種類によって説明できると考えられる(バイアスのリスクが低い試験:RR 1.04、95% CI 0.96 ~ 1.13。高い試験:RR 0.59、95% CI 0.43 ~ 0.80。交互作用の検定:P < 0.0005)。βカロテンは癌のリスクを増加させ、セレンは低下させる可能性がある。変量効果モデルによるメタアナリシスでは、死亡率に対する抗酸化サプリメントの有意な影響はみられなかったが(RR 1.02、95% CI 0.97 ~ 1.07、I2 = 53.5%)、固定効果モデルによるメタアナリシスでは死亡率が有意に増加した(RR 1.04、95% CI 1.02 ~ 1.07)。Βカロテンと、ビタミンAの併用(RR 1.16、95% CI 1.09 ~ 1.23)、およびビタミンEの併用(RR 1.06、 95% CI 1.02 ~ 1.11)では、死亡率が有意に増加した。βカロテンによる重篤でない有害作用として、皮膚の黄変やげっぷの増加がみられた。バイアスのリスクが高い4件を含む5件の試験では、セレンが消化器癌の発症に有意かつ有益な効果を示すと考えられた(RR 0.59、95% CI 0.46 ~ 0.75、I2 = 0%)。
《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2018.2.3]
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