なぜこのレビューが重要なのか?
うつ病はよく見られる精神疾患であり、悲しみ、ほとんどの活動における喜びの喪失、無価値感や罪悪感、死や自殺の考えを特徴としている。カップルセラピーは、パートナー関係における苦痛と抑うつ症状の関連や、ネガティブなパートナー関係がうつ病の発症・維持に及ぼす影響、または親密さと互いの助け合いによる緩衝効果を根拠として、うつ病のパートナーを持つ恋人・夫婦のための1つの治療法として提案されている。カップルセラピーは、否定的な相互作用のパターンを修正し、関係の相互支持的な側面を増幅させることによって効果を発揮する。カップルセラピーがうつ病を持つ人の助けになるかを知ることは重要である。
このレビューに関心を持つ人は誰か?
このレビューは、うつ病を持つ人やそのパートナー、うつ病を持つ人のケアに携わる人々が関心を持つだろう。
このレビューはどのような問いに答えることを目的としているか?
このレビューは、うつ病のパートナーを持つカップルに対するカップルセラピーの効果について、エビデンスを評価することを目的とした。
どのような研究がレビューに含まれたか?
パートナーがうつ病と診断されているカップルを対象に、外来治療で行われたカップルセラピーの研究を検討した。651 人の参加者を対象とした 14 の研究を組み入れた。そのうちの 13 の研究はランダム化比較試験であり、参加者は無作為にカップルセラピー治療群または通常の治療群に割り当てられた。ただし、1 つの研究は、セラピストの予約状況が関係しており、完全な無作為化はされていなかった。
レビューから得られたエビデンスで何がわかるか?
カップルセラピーは、うつ病の改善において個別心理療法と同等の効果があることを示唆するエビデンスが見つかったが、エビデンスの質は低かった。うつ病を持つ人がカップルセラピーを受けた場合、治療を受けない場合と比較して、より良い結果が得られる可能性があるが、研究の質が非常に低いため、この効果については非常に不確かである。また、抗うつ薬を使用した治療との比較では、限られたデータしか得られていない。治療からの離脱者が少ないという点でカップルセラピーを支持するデータがあるが、データの質が非常に低いため、この知見の信頼性は著しく低い。カップルセラピーと抗うつ薬の併用と、抗うつ薬のみの比較では、抑うつ症状の程度に差は見られなかったが、その結果は 2 つの小規模な研究によるものだった。カップルセラピーは個別心理療法よりもパートナー関係の苦痛を軽減する効果が高く、苦痛を感じているカップルだけで結果を検討すると、この効果はさらに高まった。しかし、この結果は、研究の質が非常に低いため、十分に注意して考察する必要がある。ほとんどの研究は、サンプルサイズの小ささ、サンプルの代表性の不明確さ、追跡調査時の参加者の離脱、カップルセラピーの効果に対する研究者の忠誠心バイアスなどの影響を受けていた。さらに、治療後6ヶ月を超える追跡調査はほとんどなかった。1研究のみが、カップル関係の改善がうつ病の改善につながるという仮説を検証しており、それを支持するエビデンスも見つかった。しかし、この研究はサンプル数が少なく、この仮説を調査した研究が他にないため、このレビューでは知見が支持されるかどうかを検証することはできない。カップルセラピーとうつ病の他の治療法の違いについて確信を持って結論を出すことは難しいが、カップル関係の苦痛が大きな問題である場合には、関係を改善する可能性のあるカップルセラピーを選択することが好ましいかもしれない。
今後の課題
特に悩みを抱えたカップルにおいて、他の介入と比較したカップルセラピーの効果を大規模なサンプルで長期間の追跡を行って検証する、質の高い試験が必要である。
《実施組織》 田村早織 翻訳, 五十嵐百花 監訳 [2022.10.04] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所地域・司法精神医療研究部(以下、NCNP精研地域部;cochranereview.ncnpcmhl@gmail.com)までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。NCNP精研地域部では最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD 00188.pub3》