論点壊死性腸炎(NEC)は、小児の胃腸管内で炎症により傷害が生じる病状である。NECの発現率は極低出生体重児の4%~22%である。壊死性腸炎は、乳児の未熟性、胃腸管への血流の欠如、および感染症または配合品の摂食により生じる表面(粘膜)の崩壊によって引き起こされる可能性がある。胃腸管を保護するため、人体では、アミノ酸のアルギニンより天然物質である一酸化窒素が生成される。NECを発症する極低出生体重児および早産児では、血漿アルギニン濃度が低いことが報告されている。追加のアルギニンを補液に添加することでNECを予防する可能性がある。
重要である理由NECは腸に対する永久的な損傷を生じ、複数回の手術や入院期間の延長が必要となり、死亡および医療システムへのコスト増大となる可能性がある。
どのようなエビデンスが得られたか?レビューアはアルギニン補充の有効性および安全性を評価する比較対照研究文献を検索した。妊娠期34週未満で出生した285名の乳児を組み入れた品質良好な3件の研究では、早産児の供給液にアルギニンを追加することで、NECのリスクを減少させた。乳児1名で投与が有用であるとするためには、6名の乳児で投与する必要があった。最初の28日間で過剰量のアルギニンが直接的な原因と考えられる有意な副作用は認められなかったことが報告され、また1件の研究では長期投与(36カ月)で発育遅延が認められなかったことが報告された。アルギニン補充により考えられる作用は、血圧低下および血糖コントロールの変化がある。
意味するものアルギニン補充により、早産児でのNECの罹患率および重篤度を低減させる可能性がある。数名のみを研究対象としていることから、限定的な結果となった。これらの知見を確認するには多施設で乳児を組み入れた大規模の研究が必要となる。
早産児でのアルギニン投与によりNECの発症を予防する可能性がある。試験参加者が285名の3件の小規模試験より得られた情報のため、現在のところ、推奨治療として支持するには十分なデータではない。NECの罹患率、特により重篤なステージ(2および3)に焦点を当てた多施設ランダム化比較試験が必要である。
一酸化窒素濃度低下が壊死性腸炎(NEC)で考えられる細胞機序の1つであるという説が示されてきた。アルギニンは組織内で一酸化窒素生成の基質として作用する可能性があり、またアルギニン補充がNEC予防に役立つ可能性がある。
早期産新生児でのNECの罹患率に対するアルギニン補充(投与経路を問わず)の影響を調査する。アルギニンの補充量および試験参加者在胎齢(32週以下、32週超)に基づいてサブグループ解析を実施した。
Cochrane Neonatal Review Groupの標準的な検索方法でCochrane Central Register of Controlled Trials (CENTRAL、2016年、4号)を、PubMedでMEDLINE(1966年から2016年5月12日まで)を検索し、Embase(1980年から2016年5月12日まで)、およびCumulative Index to Nursing and Allied Health Literature(CINAHL、1982年から2016年5月12日まで)も検索した。また、臨床試験データベース、学会予稿集、検索論文の文献リストも同様に検索し、ランダム化比較試験および準ランダム化比較試験を探した。
アルギニン補充に関するランダム化および準ランダム化比較試験(乳児を対象に経腸または非経口投与経路による投与を含めて、すくなくとも7日の経口または非経口投与)をプラセボまたは無投与と比較する。
このレビューでは、試験方法に関する品質について、研究報告書および個人的な試験著者との連絡で得られた情報を用いて評価した。関連性のある転帰に関するデータを抽出し、また適宜効果サイズをリスク比(RR)、リスク差(RD)および平均差(MD)として推定し報告した。Grading of Recommendations Assessment, Development and Evaluation(GRADE)法を用いてエビデンスの質を評価した。
3カ国で合計285名の新生児(140名にアルギニン投与)が組み入れられた3件の研究が対象として確認された。対象とした研究の大体の試験方法の品質について、良好と評価した。プラセボ群と比較し、アルギニン群の早期産新生児では、(ステージに関係なく)統計学的に有意な発症のリスク低減が認められ(RR:0.38、95%信頼区間(CI):0.23~0.64、I2 = 27%)(RD:-0.19、95% CI:-0.28~-0.10、I2 = 0%)、エビデンスの品質は中程度と評価された。NEC(ステージを問わず)の発症予防に必要である新たな利益を得るための必要治療数(NNTB)は6名であった(95% CI:4~10)。研究結果から、コントロール群とアルギニン群を比較でNECステージ1の発症(RR:0.37、95% CI:0.15~0.90、I2 = 52%)(RD:-0.07、95% CI:-0.14~-0.01、I2 = 0%)およびNECステージ3(RR:0.13、95% CI:0.02~1.03、I2 = 0%)(RD:-0.05、95% CI:-0.09~-0.01、I2 = 89%)に関して統計学的に有意なリスク低減が示された。エビデンスの品質は中程度であった。
アルギニン補充によりNECに関連した死亡が有意に減少した(RR:0.18、95% CI:0.03~1.00、I2 = 0%)(RD:-0.05、95% CI:-0.09~-0.01、I2 = 87%)。結果から、死亡率の臨床的異質性が示された。アルギニン群およびコントロール群または無投与群では、死因に関わらず死亡率における有意差は認められなかった(RR:0.77、95% CI:0.41~1.45、I2 = 42%)(RD:-0.03、95% CI:-0.10~0.04、I2 = 79%)。調査者は、低血圧またはグルコース恒常性の変化など、アルギニンが直接的な原因と考えられる有意な副作用を認めなかった。1件の試験のフォローアップデータから、36カ月時点での有害な転帰(脳性麻痺、認知の遅延、両側失明または補聴器が必要な難聴)に統計学的な有意差は認められなかった。この知見の欠点は、サンプル・サイズ全体が比較的小規模であることである。
《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2018.2.3]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。
CD004339 Pub4