ビタミンB6が正常状態か欠乏状態にある高齢者の気分または認知に対するビタミンB6補充の効果についてのエビデンスはない

微量栄養素の状態は、いずれの年代でも認知機能に影響を与えることがある。ビタミン欠乏は記憶機能に影響を与えることがあり、加齢に伴う認知障害と認知症の原因であろうと考えられている。ビタミンB6は精神機能と気分の調節および血管疾患の危険因子であるホモシステインの代謝に関与している。健常高齢者にビタミンB6を補充する2つの試験は、本レビューに十分適格性を与えるものであったが、気分または精神機能に対する有益な効果は確認できなかった。ホモシステインのレベルは評価されなかった。ビタミンB6の有害作用は観察されなかった。認知症または認知障害の患者に対してビタミンB6治療の効果を対象とした試験は確認されなかった。

著者の結論: 

本レビューから、気分(抑うつ、疲労、緊張の各症状)または認知機能の改善がビタミンB6によって得られるという、短期間での効果を示すエビデンスは見出されなかった。本レビューで抽出された2件の試験のうち、いずれかに登録された高齢者では、ビタミンB6経口補充によるビタミンB6の状態に関する生化学指標の改善が得られているものの、いずれの試験でも血中ホモシステイン濃度に対する潜在的効果は評価されていない。

本レビューから、高齢者ではビタミンB6の状態に関するいくつかの生化学指標が上昇する機会が得られるとのエビデンスが見出されている。健常高齢者および認知障害または認知症を有する患者におけるビタミンB6補充の潜在的効果について調査するには、一層のランダム化比較試験を実施することが必要とされる。

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背景: 

微量栄養素の状態は、いずれの年代でも認知機能に影響を与えることがある。ビタミン欠乏は記憶機能に影響を与えることがあり、加齢に伴う認知障害と認知症の原因であろうと考えられている。ビタミンB6は、ピリドキサル、ピリドキサミン、ピリドキシンという化学的に異なる3種類の化合物から構成されており、精神機能と気分の調整に関連している。ビタミンB6は必須のホモシステイン再メチル化補因子でもあり、欠乏をきたした際には血中ホモシステイン濃度が上昇する。ホモシステインは脳血管疾患の危険因子であるとともに、中枢神経系のニューロンに対して直接有害性作用をもたらすと考えられている。痙攣、片頭痛、慢性疼痛、うつ病などの神経精神障害には、ビタミンB6欠乏との関連性がある。疫学研究から、高齢者ではビタミンB6の状態が不良となる頻度が高いと示唆されている。高ホモシステイン血症は、アルツハイマー病および他の型の認知症が発現する原因または機序として示唆されている。ビタミンB6などのビタミンBを補充することにより、血中ホモシステイン濃度が低下すると示されている。

目的: 

健常高齢者での認知障害発現のリスク低減、あるいはビタミンB6欠乏が診断されているか否かに関わらず認知低下と認知症を有する患者での認知機能改善におけるビタミンB6補充の効果について評価すること。

検索戦略: 

2008年3月16日に、用語B6、”B6”、B-6、ピリドキサル、ピリドキサミン、ピリドキシンを用いてSpecialized Register of the Cochrane Dementia and Cognitive Improvement Group(CDCIG)、コクラン・ライブラリ、MEDLINE、EMBASE、PsycINFO、CINAHL、LILACSを検索した。CDCIG Specialized Registerは主要なすべての保健医療データベース(コクラン・ライブラリ、MEDLINE、EMBASE、PsycINFO、CINAHL、LILACS)ならびに多数の試験データベースおよび灰色文献の情報源からの記録を含んでいる。

選択基準: 

健常高齢者あるいは認知低下または認知症を有する患者を対象として、ビタミンB6投与とプラセボ投与が比較された、すべての交絡のない二重盲検ランダム化比較試験。一次アウトカムは、認知機能に対するビタミンB6補充の効果とした。

データ収集と分析: 

2名のレビューアが独立して、登録基準に適合する可能性があるとして抽出したすべての試験を評価した。1名のレビューアが独立してデータを抽出した。試験の全般的な質を評価した。アウトカムごとに、治療群とプラセボ群との加重平均差を95%信頼区間とともに算出した。分散分析には、レビューマネージャー・バージョン4.2を用いた。

主な結果: 

認知障害または認知症を有する患者を対象としたビタミンB6の試験は見出されなかった。

本レビューで抽出された2つの試験(Bryan 2002;Deijen 1992)では、二重盲検ランダム化プラセボ対照のデザインが用いられており、109名の健常高齢者が登録されていた。1件の試験では参加者が女性に限定されており、その他の試験では男性に限定されていた。

ビタミンB6補充と高齢健常女性に関して:

Bryan 2002では、様々な年齢群に属する211名の健常女性が5週間の試験に登録されている。この試験は多元的デザインで実施されており、葉酸、ビタミンB12、ビタミンB6、プラセボの4投与群が設定されている。65~92歳の健常女性12名にビタミンB6を75mg/日にて投与し、プラセボ群に割付けられた21名の健常女性と比較された。気分あるいは認知に対するビタミンB6の統計的に有意な効果は認められなかった。

ビタミンB6補充と高齢健常男性に関して:

Deijen 1992では、70~79歳の健常男性76名が登録された。マッチする38組に分けられ、各組の1名がビタミンB6(塩酸ピリドキシン)を20mg/日にて12週間投与する群、各組の他方がプラセボ群に割付けられた。認知または気分に対する効果から、治療群とプラセボ群との統計的有意差は見出されなかった。

ビタミンB6の血中濃度に対するビタミンB6補充の効果:

Deijen 1992では、血漿中ピリドキサル-5'-リン酸(WMD 238、95%CI 211.58~264.42、P<0.00001)および赤血球酵素アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(WMD 0.43、95%CI 0.30~0.56、P<0.00001)から評価したところ、塩酸ピリドキシンを20mg/日にて12週間投与することにより、血中ビタミンB6活性が上昇すると報告されている。

血中ホモシステイン濃度に対するビタミンB6補充の効果:

抽出されたいずれの試験でも、ホモシステイン濃度は測定されていなかった。

脱落:

ビタミンB6群またはプラセボ群に割付けられた参加者全員が試験を終了した。

有害事象:

有害事象は報告されなかった。

介護負担、医療費、施設入居率に対するビタミンB6の効果:

これらアウトカムについて評価した試験は見出されなかった。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2015.12.30]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。

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