正常な神経系機能を維持する上でビタミンB12は不可欠ですが、ビタミンB12と認知機能との関係性は十分に解明されていません。本レビューの選択基準に適合する、認知症あるいは認知障害があり、血中ビタミンB12値が低い人を対象とした3件の研究からは、ビタミンB12補充による認知に対する統計学的に有意な効果は認められませんでした。アウトカム評価に用いられた測定尺度が異なっていたこと、ビタミンB12欠乏の診断基準が不明確であったことから、試験結果の統合は困難でした。
認知症があり血清中ビタミンB12低値をきたしている患者の認知機能改善にビタミンB12が効果的であるとのエビデンスは不十分である。研究が許容できる試験(De La Fourniere 1997;Hvas 2004; Seal 2002)は、アルツハイマー病などの認知障害を有する少数の患者に限られている。認知症を有していない者を対象とした試験あるいはビタミンB12欠乏に別の定義を用いて実施する試験は見出されなかった。
神経精神障害にビタミンB12欠乏との関連性は、悪性貧血が初めて記述された1849年から認められていた。ビタミンB12欠乏は加齢に伴う認知障害の原因であろうと示唆されている。血清中ビタミンB12濃度低下が認められる高齢者は10%を超えることが判明している。血清中ビタミンB12濃度低下の有病率は高く、アルツハイマー病患者ではビタミンB12欠乏の指標が他にもあると報告されている。高齢者の認知機能に対するビタミンB12補充の効果について評価する試験をレビューすることが必要である。
高齢認知症患者および健常高齢者の認知機能に対するビタミンB12補充の効果に関し、認知障害または認知症の発症あるいは進展の予防という観点から評価すること。
2006年1月24日、以下の用語を用いて、Specialized Register of the Cochrane Dementia and Cognitive Improvement Groupを検索し、複数の試験を同定した:B12、B 12、B-12、B-complex、B complex。さらに、MEDLINE 1966 to 2006/01-week 3およびEMBASE 1980-2005/12を検索し、健常ボランティアを対象にした研究をも抽出した。
任意の投与量のビタミンB12とプラセボが比較されたすべてのランダム化二重盲検試験。
両レビューアが選択基準を当てはめて試験の質を評価した。1名のレビューア(RM)がデータの照合・分析を実施した。各アウトカムのデータをランダム化された患者ごとに求めた。
3件の試験を組み入れた(De La Fourniere 1997、Hvas 2004、Seal 2002)。1件の試験で、治療完了後2カ月後に、ランダム化から3カ月目の追跡調査結果が報告されていたが、このデータは他のデータと統合されていなかった。試験では、認知症があり血清中ビタミンB12低値が認められる患者を対象にリクルートしていた。結果からは、プラセボとの比較において、認知機能に対するビタミンB12補充による治療効果に関して統計学的に有意なエビデンスは得られなかった。
《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2016.07.06] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。