カプセルのTongxinluoは、薬草と昆虫で構成される中国伝統医薬品である。Tongxinluoには伝統的に、急性心筋梗塞(AMI)の発症やある種の心臓手術の合併症を減少させるなど、狭心症患者に臨床的利益があると考えられてきた。さらに、狭心症発作の頻度および重症度を低下させ、症状の改善に利益がある可能性を示唆する研究もある。しかし、これら個々の試験はいずれも系統的にレビューされていない。
レビューアは、不安定狭心症患者を対象に、ルーチンのケアまたはプラセボなど、他の治療法の併用の有無によるtongxinluoの利益に関して、18件のランダム化比較試験(RCT)のエビデンスを系統的に評価した。試験はいずれも中国で実施されたものであった。参加者は25~88歳の計1413例であった。ほとんどの試験が、患者をランダム化により、tongxinluoと従来の薬物療法を併用するグループまたは従来の薬物療法を単独で実施するグループに割り振っていた。
7件の研究から、tongxinluoが、虚血を示唆する心電図(ECG)上の変化を改善させ、ECG上の改善が認められないか悪化を示す患者を減らす(6件の研究)といういくつかのエビデンスが得られた。狭心症症状のある程度の改善や(10件の研究)、症状の改善が認められないか悪化する患者の減少は、tongxinluo投与で明白に認められた。tongxinluoは、3件の研究で一硝酸イソソルビドと同等の効果がみられたようである。7件の試験で、tongxinluo投与後に軽微な胃腸不快感が数件報告され、1件の試験では、皮下小血管の破壊(出血斑)の報告が3件あった。
エビデンスは、不安定狭心症の患者に対し、さまざまなアウトカムに関連して利益がある可能性を示唆したが、研究はいずれも質が低く、盲検化も割り付けのコンシールメント(隠蔵化)も実施されていなかった。このため、この治療法の利益に関して強固な結論に達することが不可能であった。不安定狭心症に対するtongxinluoの利益の可能性を確認し、この薬草療法の今後の適切な使用法を提案するためには、質の高い大規模RCTの実施が必要である。
Tongxinluoは、ルーチンの狭心症治療との併用によって、後の急性心筋梗塞、PTCAまたはCABGのリスクを減少させ、狭心症発作および重症度を低下させ、症状や心電図(ECG)上の虚血性変化を改善するように思われる。採用した研究に方法論的な限界があるため、不安定狭心症を呈する患者にこの治療法を用いることに関して、いかなる決定的な推奨事項も作成するにはエビデンスが不十分である。質の高い大規模ランダム化比較試験の実施が必要である。
Tongxinluoカプセルは、伝統的な漢方薬と昆虫で構成される医薬品で、中国や一部のアジア諸国で心血管系疾患に用いられる。その効果のエビデンスを対象にしたシステマティック・レビューがこれまで実施されていないため、実際の有益性、さらには潜在的な有害性に関して強固な結論を導き出すのが困難である。
不安定狭心症の人を対象に、tongxinluoカプセルの効果を系統的に評価すること。
コクラン・ライブラリ2004年第4号のCochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL)、MEDLINE、EMBASE、Chinese Biomedical Database、China National Knowledge Infrastructure、 Japana Centra Revuo Medicina(いずれも1995年~2005年)を検索した。関連のある中国のジャーナルをハンドサーチし、製造業者に問い合わせ、進行中の研究の登録を調べた。
tongxinluoカプセル単剤または標準治療との併用を、標準治療やその他の狭心症治療薬、プラセボまたは無介入と比較したランダム化試験。
2名の著者がレビューのために独立して、関連する研究を同定したのち、データを抽出し、試験の質を評価した。必要に応じて、採用した試験の著者に連絡を取り、詳細な情報を求めた。
1413例が参加したフォローアップが短期の試験18件を採用した。採用した試験からは、急性心筋梗塞、血管形成術(PTCA)、冠動脈バイパス術(CABG)および突然死または総死亡の統合アウトカムを減少させるとするtongxinluoの有益性を示す強力な裏付けは得られなかった(それぞれ、RR 0.42、95%CI 0.07~2.59、P=0.35;RR 0.33、95%CI 0.01~7.78、P=0.49)。Tongxinluoは、急性狭心症発作の頻度を低下させ(それぞれ、WMD -1.20、95%CI -1.38~-1.02、P<0.00001およびRR -2.36、95%CI -2.53~-2.18、P<0.00001)、ECG(RR 1.31、95%CI 1.08~1.57、P=0.005)および狭心症症状(RR 1.21、95%CI 1.06~1.40;P=0.007)を改善した。
《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2015.12.30]
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