このレビューの重要性は?
うつ病は、気分の変化、関心および喜びの喪失を引き起こすよくある問題である。資格のある音楽療法士との定期的ミーティングを含む治療介入である音楽療法は、感情表出を通じて気分の改善に役立つと思われる。このレビューによって、うつ病患者における音楽療法の効果についての新しい情報が得られるかもしれない。
このレビューに関心がある人は?
次の人が我々のレビューに関心をもつと予想される-うつ病患者とその家族、友人および介護人、一般開業医、精神科医、心理学者およびその他の精神衛生領域で働いている専門家、精神衛生領域で働いている音楽療法士、精神衛生政策立案者。
このレビューでわかることは?
1.音楽療法は通常の治療単独または心理療法よりも有効であるか。
2.音楽療法の形式間に優劣はあるか。
このレビューで対象となる研究は?
すべての年齢群(青少年から高齢者)の合計421例を組み入れた9件の試験を対象とした。試験では、音楽療法の効果を通常の治療および心理療法と比較した。加えて、2つの形式-能動的(患者が歌い演奏する)と受容的(患者が音楽を聴く)-での音楽療法の違いを調査した。
レビューのエビデンスから何がわかるか。
音楽療法+通常の治療は、通常の治療単独よりも効果的であることがわかった。音楽療法は、抑うつ症状および不安を軽減し、機能改善を助けるように思われる(仕事、活動、交友関係への関与を維持するなど)。音楽療法が心理療法より優れているか否かはわからない。音楽療法の形式間の優劣はわからない。特定された試験および参加者が少数であるため、この比較について確信が持ちにくい。
今後の展望は?
うつ病に対する音楽療法は、うつ病および不安症状の軽減に有効であるように思われる。音楽療法は、日常生活において機能するためにも役立つ。しかし、我々の所見は完全でなく、さらなる研究を通じて明らかにする必要がある。今後の試験では、小児および青少年におけるうつ病を調査し、今後の試験報告には、音楽療法による治療介入、他の治療介入およびこれらの治療介入提供者について詳細に記述する必要がある。
今回のメタアナリシスの所見から、音楽療法は、うつ病患者に短期の有益効果を与えることが示される。音楽療法をTAUに追加することによって、通常の治療(TAU)単独の場合よりもうつ病症状が改善されるように思われる。さらに、音楽療法+TAUによりTAU単独の場合と比べて有害事象が増減することはない。音楽療法は、うつ病患者の不安レベルの軽減および機能改善にも効果を示す。
我々の所見を堅固なものとするため、今後、適切なデザインおよびより大規模な青少年および成人の症例に基づく試験を行うことが必要である。研究者は、うつ病に対する音楽療法のメカニズムを研究することを考えるべきである。再現性および比較の目的で、音楽療法、TAU、対照の状態、介入施行者の職業を明確に記述することは重要である。
うつ病は、気分の落ち込みが続き、関心を持てなくなり、喜びがなくなることを特徴とする非常に有病率の高い気分障害である。音楽療法は気分や感情を変えるうえで役に立つ場合がある。うつ病に対する音楽療法の効果についての知識を深めるため、2008年コクランレビューのアップデートが必要であった。
1.すべての年齢のうつ病患者に対する音楽療法の効果を、通常の治療(TAU)および心理療法、薬物療法および/またはその他の治療法と比較検討すること。
2.うつ病と診断されたすべての年齢の患者を対象に、異なる形式の音楽療法による効果を比較すること。
次のデータベース検索を行った: Cochrane Common Mental Disorders Controlled Trials Register (CCMD-CTR; 開始から2016年5月6日まで); Cochrane Central Register of Controlled Trials (CENTRAL; 2016年6月17日まで); Thomson Reuters/Web of Science (2016年6月21日まで); Ebsco/PsycInfo、Cumulative Index to Nursing and Allied Health Literature (CINAHL)、EmbaseおよびPubMed (2016年7月5日まで); World Health Organization International Clinical Trials Registry Platform (WHO ICTRP)、ClinicalTrials.gov、National Guideline Clearing HouseおよびOpenGrey (2016年9月6日まで); ならびにDigital Access to Research Theses (DART)-Europe E-theses Portal、 Open Access Theses and DissertationsおよびProQuest Dissertations and Theses Database (2016年9月7日まで)。検索した論文の参考文献および関連性のあるシステマティック・レビューを調査し、必要であれば試験実施者および専門家に連絡し、追加情報を求めた。2017年8月にこの検索をアップデートし、関連があると思われる試験を「保留」セクションに分類した。これらの試験は必要に応じて、このレビューのアップデート版に組み入れる。
うつ病を緩和に対する音楽療法と通常の治療(TAU)、心理療法、薬物療法、その他の治療法を比較する、または異なる形式の音楽療法を比較するすべてのランダム化比較試験(RCT)および比較臨床試験(CCT)。
2名のレビュー著者がそれぞれ試験を選択し、バイアスリスクを評価し、対象に組み入れられたすべての試験からデータを抽出した。連続データには標準化平均差(SMD)、2値データにはオッズ比(OR)を95%信頼区間(CI)を付して求めた。I2統計量を用いて異質性を評価した。
このレビューに、参加者合計421名を含む9試験が組み入れられ、このうち411名がメタアナリシスに組み入れられ、うつ病に対する音楽療法の短期効果を検討した。主要アウトカムに関して、医師判定によるうつ病症状(SMD -0.98、95% CI -1.69~ -0.27、3件のRCT、1件のCCT、 n = 219)および患者報告によるうつ病症状(SMD -0.85、95% CI -1.37~ -0.34、3件のRCT、1件のCCT、 n = 142)の両方で、TAU単独よりも音楽療法とTAUの併用によって大きな効果が得られることを示す中等度の質のエビデンスが検出された。TAUと比べて、音楽療法によって有害事象が増減することはなかった。副次的アウトカムに関して、音楽療法+TAUはTAU単独よりも不安および機能に関する面で優れていた。音楽療法とTAUの併用が、TAU単独より生活の質を効果的に向上させるということはなかった(SMD 0.32、95% CI -0.17~0.80、P = 0.20、n = 67、質の低いエビデンス)。試験を早期に中止した参加者数に、重大な食い違いはみられなかった(OR 0.49、95% CI 0.14~1.70、P = 0.26、5件のRCT、1件のCCT、n = 293、中等度の質のエビデンス)。今回のメタアナリシスの所見から、音楽療法をTAUに追加することによって、TAU単独に比べて、うつ病患者に短期の有益効果がもたらされることが示される。また、心理療法と比較した場合の音楽療法の効果については、医師判定によるうつ病(SMD -0.78、95% CI -2.36~0.81、1件のRCT、n = 11、極めて質の低いエビデンス)、患者報告によるうつ病症状(SMD -1.28、95% CI -3.75~1.02、4件のRCT、n = 131、質の低いエビデンス)、生活の質(SMD -1.31、95% CI - 0.36~2.99、1件のRCT、n = 11、極めて質の低いエビデンス)、および試験の早期中止(OR 0.17、95% CI 0.02~1.49、4件のRCT、n = 157、中等度の質のエビデンス)に関して、不確実である。有害事象、機能および不安についての適格なエビデンスは認められなかった。音楽療法に形式間で優劣があるかどうかについては、医師判定によるうつ病症状(SMD -0.52、95% CI -1.87~0.83、1件のRCT、 n = 9、極めて質の低いエビデンス)、患者報告によるうつ病症状(SMD -0.01、95% CI -1.33~1.30、1件のRCT、 n = 9、極めて質の低いエビデンス)、生活の質(SMD -0.24、95% CI -1.57~1.08、1件のRCT、n = 9、極めて質の低いエビデンス)または試験の早期中止(OR 0.27、95% CI 0.01~8.46、1件のRCT、n = 10)に関して、わかっていない。有害事象、機能または不安についての適格なエビデンスは認められなかった
《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2018.2.27]
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