レビューの論点
このレビューでは、定期的なスケーリング(歯石除去)とポリッシング(歯の表面の清掃)の影響に関するエビデンスを評価した。このレビューは、コクランのオーラルヘルスグループに所属している研究者によって行われたもので、健康な成人を対象とした日常的なスケーリングとポリッシングの治療の効果を評価し、治療の間隔の違いがこれらの効果に影響するかどうかを確認し、歯科医師が行う治療と歯科療法士や歯科衛生士が行う治療の効果を比較した。
このレビューは2013年に発表されたバージョンを更新するもので、2018年1月10日時点までのものである。
背景
スケーリングとポリッシングでは、歯の表面に付着した歯垢や歯石などを除去する。これらの付着物を定期的に除去することで、時間の経過とともに歯肉炎(軽度の歯周病)が軽減され、歯周炎(重度の歯周病)への進行を防ぐ可能性がある。定期的なスケーリングとポリッシングの治療は、「予防」、「専門的な機械的プラーク除去」、「歯周治療用器具操作」などと呼ばれることもある。
多くの歯科医師や歯科衛生士は、歯周病が進行するリスクがたとえ低くても、多くの患者に、定期的なスケーリングとポリッシングを行っている。スケーリングとポリッシングが有効かどうか、また治療の最適な間隔については議論がある。スケーリングは侵襲的な治療法であり、歯の表面のダメージや知覚過敏を含めた多くの悪影響と関連している。
このレビューにおける「定期的なスケーリングとポリッシング」とは、歯と歯根の両方にスケーリングとポリッシングを行い、歯垢の付着物(主に細菌)と歯石を除去することであった。歯石は、プラークも含んでいて、硬くて、歯ブラシだけでは取れない。歯石は、他の付着物や着色物と一緒に、スケーリングとポリッシングの治療により除去される。すなわち、スケーリングとは、特別にデザインされた器具(スケーラー)や超音波スケーラーを用いて,歯の表面から付着物を除去することで、ポリッシングとは、専用のペーストを用いて機械的に行う。
このレビューでは、歯肉辺縁の上下の付着物を除去するスケーリングを対象にした。しかし、歯肉の外科手術(歯周外科手術)、歯周ポケット内の薬物による洗浄やルートプレーニングという歯根の表面を、より積極的に削るものは除外した。
試験の特徴
2件の研究を対象とし、合計1711名の参加者をレビューの対象とした。どちらの研究も、英国の歯科医院に定期的に通院している重度の歯周炎ではない成人を対象とした。これらの研究は、日常的なスケーリングとポリッシングの治療を評価するのに最も適した環境である一般歯科医院で行われた。1件の研究では24ヵ月後、1件の研究では36ヵ月後の結果を評価した。
主な結果
これらの研究では、歯周病の初期症状(歯肉炎や歯ぐきの出血、歯垢の付着、プローブとという目盛りがついた細い機器で測定した深さ(歯周ポケット))に対して、定期的に計画されたスケーリングとポリッシングの治療を行った場合と行わなかった場合を比較して、ほとんど、または全く差がないことがわかった。歯石の量がわずかに減少したが、これが患者さんや歯科医師にとって重要かどうかは不明である。
6ヶ月ごとおよび12ヶ月ごとにスケーリングとポリッシングの治療を受けた参加者は、治療を受ける予定のない参加者に比べて、歯がきれいになったと感じたと報告した。しかし、QOL(生活の質)の面では両群間に差はなかったようである。
治療法のコストに関する利用可能なエビデンスは不確かなものであった。
いずれの研究も、副作用(歯の表面の損傷や知覚過敏など)、歯肉が歯に付着する位置の変化、歯の喪失、口臭(息の臭さ)の測定は行っていない。いずれの研究も、歯科医師、歯科療法士、歯科衛生士など、異なる専門家が行うスケーリングとポリッシングの治療を比較していない。
エビデンスの確実性
歯肉炎、プローブで計測した深さ(歯周ポケット)、歯石、QOL(生活の質)についてはエビデンスの確信性は高いと判断されたが、歯垢については低く、患者の口腔内の清潔感については、低いから非常に低いと判断された。コストに関するエビデンスの確信性は非常に低いものであった。歯肉炎に関する確信性の高いエビデンスによると、定期的なスケーリングとポリッシングは、3年後までの測定においては、軽度の歯周病の兆候を有意に減少させないと確信できる。
《実施組織》堺琴美、小林絵里子 翻訳[2021.10.05]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD004625.pub5》