生殖補助医療における採卵時の卵胞フラッシュ

レビューの論点

不妊治療のうち生殖補助医療(ART)を受けている女性において、採卵の一環として行われる卵胞フラッシュの安全性と有効性を評価しようとした。

背景

自然に妊娠するのが困難なカップルは、妊娠するための介入(治療)を受けることを選択するかもしれない。これらの介入は、生殖補助医療(ART)と呼ばれる。ARTのひとつに体外受精(IVF)がある。体外受精では、ホルモン剤を用いて卵巣を刺激し、それぞれの卵巣にある卵胞の中で卵を複数発育させる。この卵巣刺激に続き、これらの卵を採取するために、超音波ガイド下で卵胞内に針を挿入する。卵胞内を吸うだけでその内容物を回収する吸引法の代わりに、吸引後に卵胞内をフラッシュすることで、卵の回収率があがり、その結果、妊娠・出産の可能性が高くなるのではないかという提案がなされてきた。この方法は、卵胞フラッシュと呼ばれる。

研究の特性

合計1,643人の女性が、卵胞吸引単独群または卵胞吸引後フラッシュ群に無作為に割り付けられた15件の研究を対象とした。この2 つの手法に差があるかを見るため、主要な結果として出生率 (女性1000人あたり生まれた赤ちゃんの数)および流産率 ( 女性1000人あたりの流産数) について調査した。この分野で2021年7月に利用可能なすべての関連した研究を同定するため、包括的な検索を行った。

主な結果

4件の研究では、主に出生率に関する結果が報告されていた。卵胞フラッシュが吸引単独と比較して、出生率に影響を与えるかどうかは不明である。これは、吸引単独で約30%の出生率であるのに対し、卵胞フラッシュでは同等の出生率すなわち20~39%に値すると示唆するものである。流産率については1件の研究で報告されているが、エビデンスの確実性が低く、自信を持って結論を出すことができない。しかしながら、吸引単独での流産率が約1%であれば、卵胞フラッシュでの流産率は0~22%であることが示唆された。

また、吸引単独と比較して、卵胞フラッシュが採卵数、胎児の数、臨床的妊娠率に与える影響も不明であった。エビデンスの確実性は低かったが、卵胞フラッシュを行うと吸引単独に比べて時間がかかるようだ。有害事象や安全性に関して確固たる結論を出すには、利用可能なエビデンスが不十分であった。

特定の患者群が卵胞フラッシュの恩恵を受けるかどうかについて判断するためには、より多くの研究が必要である。

エビデンスの確実性

主要な結果である出生率については、エビデンスの確実性は中程度であった。それ以外の結果については、エビデンスの確実性は非常に低度から低度であった。対象とした研究の主な限界は、盲検化(試験に参加している女性と研究スタッフ双方が、介入した内容を知らないようにするプロセス)の欠如、矛盾(異なる研究間で違いがあること)、および不正確 (不十分なデータ)である。

訳注: 

《実施組織》杉山伸子、井上円加 翻訳 [2023.1.9]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD004634.pub4》

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