IBSの治療を目的とする催眠療法の研究催眠療法の研究は少数しか実施されておらず、またこれらの研究の実施方法は高水準ではなかった。催眠療法について、IBSの標準治療、補足的心理療法(症状や考えられる感情的問題、ストレスに満ちた生活での様々な出来事の考察)または専門医に受診するまで治療を行わない待機リストの患者と比較した。
IBSとは?また催眠療法の治療としての効果は?IBSは、慢性腹痛や排便異常(下痢、便秘、または下痢や便秘が複合したもの)を特徴とする一般的な胃腸障害である。催眠療法は、腹痛を認識し蠕動運動に影響を与える脳の部分に作用することにより、IBSに有用性をもたらす可能性がある。
研究結果についてこの研究から、催眠術が腹痛などのIBS症状の治療に有効であることを示唆するいくつかのエビデンスが得られている。しかし、研究の質が低く、対象集団が小規模であることから、これらの研究の結果を慎重に解釈すべきである。
催眠療法の安全性について催眠療法は忍容性がよく、重度の有害作用は研究では報告されていない。
最終的な結論。現在のデータは有望であるが、IBSの治療のための催眠療法の有効性について何らかの結論を出すにはエビデンスが十分ではない。厳密に設計した研究によってさらに研究を実施する必要がある。
対象とした試験の質は、IBSに対する催眠療法の有効性について結論に至るには不十分であった。高品質な試験を実施するより多くの研究が必要である。
過敏性腸症候群(IBS)は、病因が不明で一般的に認められる機能性胃腸障害である。現在の薬剤治療による有用性は限られている。催眠療法がIBSの症状に有益な効果を示すことが報告されている。
IBSの治療を目的とした催眠療法の有効性を評価する。
MEDLINE(1966年〜2006年3月)、EMBASE(1980年〜2006年3月)、PsycINFO(1806年〜2006年3月)、CINAHL(Cumulative Index to Nursing and Allied Health Literature:1982年〜2006年3月)、AMED(Allied and Complementary Medicine Database:1985年〜2006年3月)およびThe Cochrane Central Register of Controlled trialsを構造的に検索を行い、発表済みおよび未発表のランダム化臨床試験および準ランダム化臨床試験を特定した。Digestive Disease Week(1980年〜2005年)の会議の議事録も検索した。
対象となる研究には、IBSの治療を目的とした催眠療法と無治療または別の治療インターベンションを比較した、すべてのランダム化および準ランダム化臨床試験を対象とした。
すべての研究について、レビュー対象の適格性を評価した。対象となった研究については品質を評価し、4名のレビューアがそれぞれデータを抽出した。関心のある主要アウトカム指標は、腹痛、下痢または便秘および鼓張を併せた全体的な腸症状の重症度スコアとした。副次アウトカム指標は、腹痛、下痢、便秘、鼓脹、生活の質、健康状態の総合評価、検証されたアンケートによる心理的尺度、および有害事象とした。
合計147例で実施した4件の研究が選択基準を満たした。1件の研究では、催眠療法と代替療法(心理療法とプラセボ錠)を比較し、2件の研究では催眠療法と待機リストの対照と比較し、また最後1件の研究では睡眠療法と通常の医学的管理を比較した。アウトカム指標と研究デザインが異なったため、メタ解析を目的としたデータ集積は行わなかった。催眠療法の治療効果は、標準的な医学療法で効果が得られなかった患者で短期間、腹痛および主なIBSの複合的症状に対して、待機リストの対照または通常の医学的管理と比較して優れていることが判明した。有害な有害作用は、対象としたいずれの試験でも報告されていない。しかし、これらの研究の結果は、研究方法の質が悪く、被験者数も少ないため、慎重な解釈が必要である。
《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2018.2.26]
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