このレビューの目的
石鹸と水で手洗いするか、擦式アルコール手指消毒(alcohol-based hand rub :ABHR)を行うか、或いはその両方を行うか、どの戦略が、医療従事者に受入れられ易いか(遵守されやすいか)検討することを目的とした。これは、以前に公開されたレビューの更新版である。
要点
世界保健機関(World Health Organization:WHO)の現在の勧告に基づく単一の様々な介入方法や、戦略の組み合わせは、行われる環境に関係なく、ほとんどの研究において、手指衛生の遵守率(コンプライアンス)の向上に繋がった。しかし、戦略によっては、エビデンスの確実性は、非常に低いものから中程度のものまで様々であった。どの戦略が、或いは、どの戦略の組み合わせが特定の状況下で最も効果的であるかは、明確にはならなかった。
レビュー結果から分かったこと
従来から手指衛生は、医療関連感染を減らす単独で最も重要な方法と考えられており、感染症の多くは、特に医療従事者の手が直接接触することによって拡がっていく。手指衛生を推進するために世界中で多くの時間と労力が費やされてきた。手指衛生が徹底される(コンプライアンスをあげる)ために多くの異なる戦略が試みられてきたが、最も効果的な方法は不明のままである。
レビューの主な結果
このレビューには26件の研究が採用された。14の研究は、手指衛生のコンプライアンスを改善するためにWHOが推奨する戦略の異なる組み合わせが成功するかを検討した。擦式アルコール手指消毒製品を使いやすくすること、様々なスタッフへの教育方法、書面や口頭での手指衛生を思い出させる方法、様々な評価のフィードバック方法、行政による支援とスタッフの関与などの様々な戦略が試みられていた。6つの研究は、異なるタイプの評価のフィードバック方法を検討し、2つの研究は教育方法を評価し、3つの研究は標識や気づきの手がかり(合図になるもの)を評価し、1つの研究は擦式アルコール手指消毒製品の設置について評価した。
WHOが推奨する戦略も推奨していない戦略も含めて、様々な方法の組み合わせが、手指衛生コンプライアンスをわずかに改善し、感染率をわずかに低下させる可能性があった(エビデンスの確実性は低い)。WHOが推奨する戦略を組み合わせた多様な介入も、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症の割合を下げる効果はわずか、又はほとんど差がなく(低い確実性のエビデンス)、WHOの推奨するアプローチは、エビデンスの確実性が非常に低く、手指衛生のコンプライアンスを改善するか、或いは、MRSAの保菌率を低下させるかは不明である。全ての推奨された戦略と追加戦略を組み合わせた多様な介入は、手指衛生のコンプライアンスをわずかに改善する可能性がある(エビデンスは非常に低い確実性)。このようなWHOが強化した介入は、エビデンスの確実性が非常に低いため、感染率を低下させるかどうかは不明である。
評価のフィードバックを行う方法は、手指衛生のコンプライアンスを改善し(エビデンスは低い確実性)、おそらく感染率と保菌率をわずかに低下させる可能性がある(中程度の確実性のエビデンス)。教育は、手指衛生のコンプライアンスを改善する可能性がある(低い確実性のエビデンス)。標識や気づきの手がかり(合図になるもの)により、手指衛生のコンプライアンスがわずかに改善する可能性がある(低い確実性のエビデンス)。ABHRを使用する場所の近くに配置することは、おそらくわずかに手指衛生のコンプライアンスを向上させる (中程度の確実性のエビデンス).
本レビューの更新状況
レビュー著者らは、2016年10月までに公表された研究を検索した。
《実施組織》星佳芳 翻訳、井村春樹 監訳[2020.03.09] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CDCD005186.pub4》