高齢者での認知症予防に対する魚油

認知症とは、主に高齢者が罹病する進行性疾患である。これまでの観察研究による研究では、オメガ3長鎖多価不飽和脂肪酸(オメガ3PUFA)に富んだ魚油を多く摂ると、認知症の発症率が低下すると示唆されてきたが、効果を示さないとする他の研究もみられる。鮭、鯖、鰊、鰯などの魚油は、脳の発達に必須であるオメガ3PUFAに富んだ食品源である。 レビューアらは、研究開始時に認知機能が正常の60歳超の正常参加者の食事にオメガ3PUFAを添付するか、またはプラセボ(オリーブ油など)にランダムに割り付けた研究を選択した。評価対象とした主要アウトカムは、試験実施中に診断された認知症の新規発症、認知機能低下、副作用、介入の服薬継続率であった。 レビューアらは、3,536名の参加者を対象とした3件のランダム化比較試験を選択した。2件の研究では、参加者は6~24ヵ月間オメガ3PUFAまたはオリーブ油/ひまわり油の入ったゲルカプセルの投与にランダムに割り付けられた。3件目の研究では、参加者は40ヵ月間(パンに)マーガリン塗布(普通のマーガリン対オメガ3PUFA強化マーガリン)にランダムに割り付けられた。 試験実施中の認知症の新規発症に対するオメガ3PUFAの効果を検討した研究はなかった。3,221名の参加者を対象とした2件の研究では、最終追跡時のMini-Mental State Examinationスコアに関して、オメガ3PUFA群とプラセボ群とに差はなかった。1,043名の参加者を対象とした2件の研究によると、単語学習、数唱、言語流暢性などの認知機能の他の検査では、オメガ3PUFA補充に有益な効果が認められなかった。介入群とコントロール群の参加者はどちらも、研究中にほとんどあるいはまったく認知機能低下の発現がなかった。 オメガ3PUFA補充で主に報告された副作用は、軽度の胃腸障害であったが、軽微な症状は全体として参加者の15%未満から報告があり、コントロール群における報告率もオメガ3PUFA補充者と同程度であった。補充プロトコルの服薬継続率はすべての試験で高く、試験参加者による摂取は平均して約90%超であった。本レビューに選択した3件の研究は方法論的に質がすべて高く、得られた所見が偶然またはバイアスによる可能性は低かった。 得られた研究の結果では、認知機能が正常の高齢者における認知機能に対しオメガ3PUFA補充による利益は認められなかった。オメガ3PUFA補充ではその他にも健康上の利益がみられる可能性があり、魚の摂取は健康的な食事の一部として推奨される。 期間中に認知機能のより大きな変化を見るにはもっと長期の研究が必要であり、それによって研究者には認知機能低下の予防におけるオメガ3PUFAで推定される利益が同定できると考えられる。

著者の結論: 

認知症の自然発症に対するオメガ3PUFAの効果に関しては、直接的エビデンスが欠如していた。得られた試験では、認知機能正常の高齢者における認知機能に対しオメガ3PUFA補充による利益は示されなかった。オメガ3PUFA補充の忍容性は概して良好であり、最も高頻度に報告された副作用は軽度胃腸障害であった。

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背景: 

観察研究からのエビデンスによると、オメガ3長鎖の多価不飽和脂肪酸(PUFA)が多く含まれる食事によって認知機能低下および認知症を予防できると示唆されている。この予防効果の程度は最近ランダム化比較試験で検証された。

目的: 

認知機能正常の高齢者を対象に、オメガ3PUFA補充療法による認知症と認知機能低下予防に対する効果を評価すること。

検索戦略: 

2012年4月6日に、「オメガ3」、「PUFA」、「脂肪酸」、「魚」、「亜麻仁油」、「エイコサペンタエン酸」、「ドコサヘキサエン酸」の用語を用いて、ALOIS - the Cochrane Dementia and Cognitive Improvement Group’s Specialized Registerを検索した。

選択基準: 

研究開始時に認知症および認知障害のない60歳以上の参加者に対し6ヵ月以上オメガ3PUFAによる介入を行ったランダム化比較試験。2名のレビューアが別々にすべての試験を評価した。

データ収集と分析: 

レビューアらは、認知症の自然発症(incident dimentia)、認知機能、安全性および服薬継続率に関するデータを発表論文から、あるいは原著データの研究者に連絡を取って検索、抽出した。2名のレビューアがデータを抽出した。intention-to-treatに基づいて、平均差(MD)、標準化平均差(SMD)、95%信頼区間(CI)を算出し、安全性および服薬継続率に関する聞き取り情報を要約した。

主な結果: 

3件の試験でランダム化された4,080名の参加者について研究開始時の認知機能の情報を得ることができた。最終追跡時、3,536名の参加者について認知機能データを得ることができた。 2件の研究では、参加者は6~24ヵ月間オメガ3PUFA(介入)またはオリーブ油/ひまわり油(プラセボ群)の入ったゲルカプセルを投与された。1件の研究では、参加者は40ヵ月間(パンに)マーガリンを塗って投与され、介入群のマーガリンにオメガ3PUFAが含まれていた。2件の研究は主要アウトカムを認知機能正常をとしたが、1件の心血管疾患の研究では追加アウトカムとして認知機能正常を含んでいた。 認知症の自然発症に対するオメガ3PUFAの効果を検討した研究はなかった。3,221名の参加者が対象となった2件の研究では、最終追跡時のMini-Mental State Examination検査スコアについて、オメガ3PUFA群とプラセボ群とに差はなかった(介入後24ヵ月・40ヵ月)、(MD -0.07、95%CI -0.25~0.10)。1,043名の参加者が対象となった2件の研究によると、単語学習、数唱、言語流暢性などの認知機能の他の検査では、オメガ3PUFAの補充で有益な効果が認められなかった。介入群とコントロール群の参加者はどちらも、試験実施中にほとんどあるいはまったく認知機能低下がなかった。 オメガ3PUFA補充の副作用として主に報告されたものは、軽度の胃腸障害であった。全体で軽微な有害事象が参加者の15%未満から報告され、介入群間で報告に差はなかった。介入群の服薬継続率は、試験を終了した人で平均約90%超であった。本レビューで選択した3件の試験は方法論的に質がすべて高かった。

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