レビューの論点
原発性骨粗鬆症の人に対する漢方薬の効果についてレビューを行った。10,655例を対象とした108件の研究を見出した。
背景:原発性骨粗鬆症および漢方薬とは何か?
骨は、生きて成長している身体の一部である。一生を通じて、新しい骨細胞が成長し、新しいより強い骨が育つスペースを作るために古い骨細胞は破壊する。骨粗鬆症の場合、古い骨が新しい骨に置き換わるより早く破壊してしまう。こうなると、骨はカルシウムなどのミネラルを失ってしまう。そのため、骨が弱くなり、ちょっとした衝突や転倒などの軽微な傷害で骨折しやすくなる。
漢方薬は薬用植物のあらゆる部位から作られる製剤である(葉、茎、芽、花、根)。非植物成分を含有することも時々ある(例:昆虫、鹿の角、ヘビ、さまざまな貝殻、化石の粉末)。これらは生の植物原料として、もしくは生の植物原料の水抽出物やアルコール抽出物として使用できる。また、漢方薬はカプセル、錠剤、液体として口から摂取したり、注射したりすることができる。
漢方薬は原発性骨粗鬆症に対して中国では広く使われているが、 その利益と有害性について、臨床診療に役立てるための評価は行われていない。
研究の特性
2013年1月までの関連性のあるあらゆる研究を検索し、骨粗鬆症の人10,655例を対象とした108件の試験を見出した。99種類の異なる漢方薬について調べており、プラセボ(3件の試験)、 非介入(5件)、または通常医療(61件)と比較していた。また、漢方薬と通常医療の併用と、通常医療単独を比較した試験も47件あった。平均治療期間は5.7カ月(3~12カ月)であった。
主な結果:骨粗鬆症の人が漢方薬を摂取するとどうなるのか?
新たな骨折
漢方薬が新たな骨折の可能性を減少させるかについては不明確である。7件の試験が骨折の発生率を評価していた。しかし、これらの試験は小規模で、研究方法に欠陥があった。
QOL
Bushenhuoxueと炭酸カルシウム錠剤とアルファカルシドールを3カ月間併用した人では、漢方薬を摂取しなかった人よりも、0~100点で評価するQOLが5.30点良好であった。
Bushenhuoxueと炭酸カルシウム錠剤とアルファカルシドールを併用した人では、QOLが0~100点中56.05点であった。
炭酸カルシウム錠剤とアルファカルシドールを併用した人では、QOLが0~100点中50.75点であった。
重篤な副作用や死亡
これらの試験では重篤な副作用や死亡はなかった。
副作用や合併症について、多くの場合、詳細な情報を得ることができなかった。稀ではあっても重篤な副作用では特に情報が不足していた。考えられる副作用には軽度の胃痛や下痢がある。
骨塩密度(骨に含まれるミネラルの量と種類)
漢方薬と、プラセボ(偽の治療)、無治療、通常医療を比較した複数の研究を見出した。また、漢方薬と通常医療の併用と通常医療単独を比較した研究も見出した。
プラセボ(偽の治療)と比較して、3件の研究が漢方薬では骨塩密度がわずかに増加することを示した。
無治療や通常医療と比較して、いくつかの研究で漢方薬が骨塩密度を増加させることを示したが、示さなかった研究もあった。
漢方薬と通常医療の併用と通常医療の単独を比較した場合、いくつかの研究で併用療法では骨塩密度が増加することを示したが、示さなかった研究もあった。
エビデンスの質
骨粗鬆症の人:
-漢方薬は骨塩密度とQOLをわずかに改善する可能性がある。さらなる研究によって、漢方薬が骨塩密度やQOLにどの程度影響するかについての見解が変わる可能性がある。
-漢方薬が新たな骨折の可能性を減少させるかについては不明確である。
-死亡や重篤な副作用を報告した試験はなかった。
現在の知見では、BMDの改善に対する漢方薬の有益な効果は不確かなものであり、より厳密な研究が必要であることを示唆している。
漢方薬は骨粗鬆症の治療に昔から使用されている。その利益と有害性に関するエビデンスについて、体系的に調査する必要がある。
漢方薬とプラセボ、非介入、通常医療を比較することで、原発性骨粗鬆症の治療に対する一般的な実験的介入としての漢方薬の効果と有害作用について評価すること。
2013年1月までの以下の電子データベースを検索した。the Specialised Register of the Cochrane Complementary Medicine Field、CENTRAL、MEDLINE、EMBASE、LILACS、JICST-E、AMED、Chinese Biomedical DatabaseおよびCINAHL。
漢方薬と、プラセボ、非介入、または通常医療を比較したランダム化比較試験(RCT)。
2名の著者が独立してデータを抽出し、バイアスのリスクを評価した。著者らによる討議を経て意見の相違を解決した。
10,655例を対象とした108件のRCTを選択した。99種類の異なる漢方薬について調べており、プラセボ(3件の試験)、 非介入(5件)、または通常医療(61件)と比較していた。また、漢方薬と通常医療の併用と、通常医療単独を比較した試験も47件あった。研究デザインの報告が不十分なため、すべての研究のバイアスのリスクが、ほとんどの分野について不明であった。選択的報告のリスクについてすべての研究で不明と評価したが、ごく少数の研究では主要アウトカムに対する数値データを提供していた。
7件の試験では骨折の発生率を報告したが、サンプル・サイズが小さく、さまざまなバイアスがあり、異なる漢方薬について調査していた。これらの試験では以下の比較を行った。Kanggusongカプセルとプラセボの比較、Kanggusong顆粒とカルトレイト単独またはイプリフラボンとカルトレイトの併用の比較、Yiguカプセルとカルシウムの併用とプラセボとカルシウムの併用の比較、Xianlinggubaoカプセルとカルトレイトの併用とプラセボとカルトレイトの併用の比較、Bushen Zhuanggu顆粒とカルトレイトの併用とプラセボ顆粒とカルトレイトの併用の比較、Kanggusong液とカルトレイトの併用とカルトレイト単独の比較、Zhuang- guqiangjin 錠剤とShujinbogu 錠剤とカルシトニンアンプルの併用とカルシトニンアンプル単独の比較。結果には一貫性がなかった。
1件の試験では、Bushenhuoxueと炭酸カルシウム錠剤とアルファカルシドールの併用が、炭酸カルシウム錠剤とアルファカルシドールの併用よりも、QOLのスコア(0~100点、点数が高いほど良好)に対する効果がより大きいことを示した(平均差(MD)5.30;95%信頼区間(CI)3.67~6.93)。
プラセボと比較した3件の異なる試験では、漢方薬(Migu煎じ薬、Bushen Yigu軟エキス、Kanggusongカプセル)が骨密度(BMD)を統計学的に有意に増加させることを示した(例:Kanggusongカプセル、MD 0.06 g/cm3;95%CI 0.02~0.10)。非介入と比較した5件の試験のうち2件のみが、漢方薬がBMDの増加に対して統計学的に有意な効果があることを示した(例: Shigu yin、MD 0.08 g/cm3;95% CI 0.03~0.13)。通常医療と比較した61件の試験のうち23件が、漢方薬がBMDの増加に対して統計学的に有意な効果があることを示した。漢方薬と通常医療の併用と通常医療単独を比較した48件の試験では、26件がBMDの増加に対する効果が併用療法でより大きいことを示した。
漢方薬による死亡または重篤な有害事象を報告した試験はなかったが、悪心や下痢などの軽微な有害作用を報告した試験もあった。
《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2015.12.31]
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