多嚢胞性卵巣症候群における顔や体部の多毛、にきび、月経異常に対するメトホルミンと低用量エストロゲン・プロゲスチン配合剤との比較

レビューの論点

メトホルミンは、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の女性の臨床的、ホルモン的、代謝的な状態(月経不順や希発月経、顔や体部の多毛、にきび、肥満)を改善するうえで、経口避妊薬(OCP)よりも効果的で安全性が高いか?

背景

PCOSは、妊娠可能な年齢の女性の約10人に1人が罹患するよく見られるホルモンおよび代謝的な問題で、しばしば、月経不順、顔や体部の多毛、にきび、多嚢胞性卵巣(小さな袋(卵胞)が多数あるために卵巣が肥大化する状態)を引き起こす。OCPは、妊娠を望んでいないPCOSの女性にとって、以前から効果が実証されている治療法である。最近では、メトホルミン(インスリンや血糖値を下げる薬で、2型糖尿病の治療に用いられることが多い)が、PCOSの女性に対してOCPよりも効果的で、長期間治療で用いても安全である可能性が提唱されてきた。したがって、PCOSを持つ女性において、この2つの治療法の利点とリスクを直接比較することが重要である。

研究の特性

PCOSの女性2253人を対象に、メトホルミンとOCP(単独または併用)を比較した44件のランダム化比較試験(RCT)を特定した。その内訳は、成人女性を対象としたRCTが39件(参加女性:2047人)と、思春期の女性を対象とした5件のRCT(参加女性:206人)である。研究の結果を組み合わせ、研究の質を評価して、結果がどれだけ確信できるものか判断した。本エビデンスは2019年8月現在のものである。

主な結果

成人女性において、顔や体の過剰な毛を改善するという観点からメトホルミンとOCPを比較したところ、BMI(body mass index)が25kg/m2~30kg/m2のPCOS女性ではメトホルミンの効果が低い可能性がある。BMIが25kg/m2未満または30kg/m2以上の場合の効果は不明である。重度の有害事象(投薬中止を必要とするもの)については、メトホルミンは消化器症状(吐き気、嘔吐、下痢など)の発生率が高く、その他の有害事象の発生率は低いようだった。エビデンスによると、OCPを服用した時の胃腸に関する重篤な有害事象発生率が0.3%だった場合、メトホルミンを服用した時の胃腸に関する重篤な有害事象発生率は1~4.5%になる計算である。また、OCP服用後の重篤なその他の有害事象の発生率が12%だとすると、メトホルミン服用後の重篤なその他の有害事象の発生率は1~6%であることが示唆されている。

メトホルミン単独またはOCP単独は、OCPとメトホルミンの併用に比べて、顔や体部の多毛を改善する効果が低いかもしれない。重篤な有害事象については、胃腸系の有害事象やその他の有害事象について、メトホルミン単独とメトホルミンとOCPの併用療法との間に差があったかどうかは不明である。メトホルミンとOCPの併用による重度の胃腸障害の発生率が7%であれば、メトホルミン単独で服用した時の発生率は2~17%となり、メトホルミンとOCPの併用による重度のその他の有害事象の発生率が6%であれば、メトホルミン単独の服用時の発生率は0.7~15%となる。

OCP単独とメトホルミンとOCPの併用療法を重篤な有害事象で比較した場合、OCPの方が消化器系の有害事象の発生率が低い可能性があるが、その他の有害事象に違いがあるかどうかは不明である。メトホルミンとOCPを併用した場合の重篤な消化器系有害事象の発生率が10%とすると、OCP単独を服用した場合の発生率は1~7%となる。メトホルミンとOCPを併用した場合の重篤なその他の有害事象の発生率が4%であれば、OCP単独を服用した場合の発生率は2~18%となる。

思春期の女性において、多毛症および有害事象(投薬を中止しなければならない重篤なものと軽度のものの両方)に関して、本レビューで行った3つの比較を行ったところ、それぞれの治療法の間に差があるかどうかは、エビデンスがないか、1件だけの試験に基づく非常に質の低いエビデンスしか得られないため、不明であった。

エビデンスの質

エビデンスの質は非常に低度から低度であった。エビデンスの主な限界は、試験方法の報告が不十分であったことと、結果の精度と一貫性の両方が欠如していたことである。

訳注: 

《実施組織》杉山伸子、小林絵里子 翻訳[2021.03.14]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD005552.pub3》

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