早期乳癌患者は、HER2陽性または陰性の腫瘍を有す。HER2陽性癌の方が進行性で侵襲性が高い。癌がHER2蛋白高値(乳癌5例に約1例)かどうか知ることは、治療の選択に影響する。トラツズマブ(商品名ハーセプチン)はこれらの患者に特異的に使用可能な薬剤である。癌治療の目的は早期に微小転移を排除することであり(すなわちアジュバント)、その結果より多くの女性が再発せずに生存できるようになる。 本レビューではトラツズマブ投与または非投与のいずれかにランダムに割り付けられたHER2陽性手術可能乳癌女性11,991名を対象とする8件の試験が選択された。トラツズマブは常に開始療法として標準的化学療法と併用される、または単独投与で継続される、あるいはアロマターゼ阻害薬タモキシフェンなどのホルモン阻害薬と併用して継続される。女性患者は数年間(平均3年間)臨床医によりフォローされる。本レビューでは、トラツズマブが再発および死亡率を有意に低下させるという所見が得られた。投与患者の一部では重度の心毒性[うっ血性心不全(CHF)]が発現した。乳癌死亡率は3分の1だけ低下した一方で、心毒性リスクはトラツズマブ投与女性の方が標準的療法単独の女性に比べて5倍高かった。標準的療法単独(トラツズマブ非投与)女性1,000名の場合、約900名が生存し5名に心毒性が発現する。標準的化学療法とトラツズマブを1年間投与された女性1,000名の場合、約933名が生存し(さらに33名の女性が生存を延長)、約740名が無再発となり(さらに95名が再発しない)、26名にトラツズマブによる重篤な心毒性が発現する(化学療法単独群に比べて21名多い)。これらの心毒性はトラツズマブ投与が直ちに中止された場合、多くの場合回復する。 長期投与(1年)の方が短期投与(6ヵ月以内)に比べて重度の心毒性リスクが高い。これらの結果は2件の研究と少数の患者に基づいたものである。再発リスクが高く心機能障害の徴候がない女性では、リスクよりはるかに大きい利益がトラツズマブにより提供できる。再発リスクが低い(腫瘍の大きさが小さいなど)患者ではリスクと利益のバランスを慎重に評価する必要がある。腫瘍専門医は治療を開始すべきか、どのように治療を開始するかに関して、患者と決定を共有すべきである。
早期乳癌と局所進行性乳癌のHER2陽性女性ではトラツズマブにより有意にOSとDFSが改善した。しかし、CHFとLVEF低下のリスクが有意に上昇した。得られたサブグループ解析は研究が少数であったため限定的であった。トラツズマブの併用投与の研究または逐次投与の研究では有効性に有意差はなかった。短期投与の方が心毒性が少なく有効性を維持したが、これらの試験での患者数が少ないため現在これを結論とするエビデンスは不十分である。
早期乳癌発症女性の約5分の1はHER2陽性腫瘍を有し、治療を受けない場合その予後はHER2陰性腫瘍に比べて不良である。トラツズマブはHER2経路を標的とする選択的治療薬である。有効性に関する結果はその使用を支持している一方で、心毒性の可能性があるため、特に再発リスクの低い女性や心血管系リスクが高い女性では心毒性の可能性について考慮する必要がある。
HER2陽性早期乳癌患者を対象に、トラツズマブによる治療の有効性と安全性を、全体的にかつその投与期間、標準的化学療法レジメンとの併用または逐次投与との関連について評価すること。
Cochrane Breast Cancer Group's (CBCGs) Specialised Trials Registerを検索し、CBCGが開発した検索戦略を用いて CENTRAL、MEDLINE、EMBASE、BIOSIS、TOXNETおよびWHO ICTRP検索ポータルにおけるランダム化比較試験(RCT)を検索した(2010年2月まで)。
局所進行性乳癌女性を含むHER2陽性早期乳癌女性を対象に、トラツズマブ単独または併用の有効性および安全性を無治療または標準的化学療法単独と比較しているRCT。
既発表と未発表の試験からデータを収集した。無イベント期間アウトカムにはハザード比(HR)を、二値アウトカムにはリスク比(RR)を用いた。サブグループ解析には、期間(6ヵ月未満または6ヵ月超)およびトラツズマブ併用投与またはトラツズマブ逐次投与を含めた。
11,991名の患者を対象とする8件の研究を選択した。総生存(OS)および無病生存(DFS)についての統合HRは、トラツズマブ含有レジメンを有意に支持する結果を示した[それぞれHR 0.66、95%信頼区間(CI)0.57~0.77、P<0.00001;HR 0.60、95%CI 0.50~0.71、P<0.00001]。トラツズマブでは、うっ血性心不全(CHF:RR 5.11、90%CI 3.00~8.72、P<0.00001)と左室駆出率低下(LVEF:RR 1.83、90%CI 1.36~2.47、P=0.0008)のリスクが有意に上昇した。血液学的毒性については、リスクは同程度であった。6ヵ月未満トラツズマブが投与された2件の小規模試験では、有効性は長期の研究と異ならなかったが、心毒性が少なかった。併用投与の研究では逐次投与と同程度の有効性と毒性が認められた。
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