がん患者の血栓の初期治療としての抗血栓薬

背景
がん患者は血栓(血の塊)の発生リスクが高い。血栓が確認されて数日以内に投与される抗血栓薬(抗凝固薬)は、未分画ヘパリン(点滴静脈注射)、低分子ヘパリン(1日1回または2回皮下注射。ダルテパリンおよびチンザパリンは異なる2種類の低分子ヘパリン。略語はLMWH)またはフォンダパリヌクス(1日1回皮下注射)のいずれかになることがある。各抗血栓薬は種類によって効果や安全性の特徴が異なる場合がある。

研究の特性
複数の科学文献データベースを利用して、四肢(腕や脚)または肺に血栓が確認されたがん患者に対するさまざまな抗凝固療法を比較した臨床試験を検索した。がん治療の種類に関係なく、固形腫瘍または血液腫瘍がある成人および小児を対象とした臨床試験をレビューの対象とした。いずれの試験も死亡、血栓の再発および出血を検討していた。本エビデンスは2021年8月現在のものである。

主な結果
レビューの対象として計15件の試験を特定した。うち5件のデータから、低分子ヘパリンは未分画ヘパリンよりも3カ月時点の死亡率を低下させ、血栓の再発をわずかに減らす可能性があることが示唆された。出血に関しては両薬剤の効果を比較したデータが見つからなかった。また、フォンダパリヌクスは3カ月時点の死亡率を上昇させ、血栓の再発や大出血の発現率にはほぼまたはまったく差を生じないものの、おそらく小出血の発現率を高めることがわかった。また現在のエビデンスによれば、低分子ヘパリンの一種であるダルテパリンは、死亡率をやや減少させ、血栓の再発を抑えるが、大出血の発現をやや増加させ、小出血の発現をやや減少させることが示された。

エビデンスの確実性
低分子ヘパリンと未分画ヘパリンの比較に関するエビデンスの確実性は、全評価項目に関して低いと判断した。フォンダパリヌクスとヘパリンの比較に関しても確実性は低いが、小出血に関するエビデンスのみは中等度である。チンザパリンとダルテパリンの比較は確実性が低いと判断した。

訳注: 

《実施組織》一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT:ジャムティ)『海外がん医療情報リファレンス』(https://www.cancerit.jp/)ギボンズ 京子 翻訳、吉松 由貴(University of Greenwich, Queen Elizabeth Hospital)監訳 [2022.07.04] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクラン・ジャパンまでご連絡ください。 なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD006649.pub8》

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