本レビューは、2012年に最初に発表されたコクランレビューの更新版である。
なぜこのレビューが重要なのか?
うつ病は高齢者に多くみられる問題で、大きな障害を引き起こす。治療が成功しても、再発することが多い。
高齢者のうつ病の原因は若年者に比べて多様であり、また高齢者の人数は着実に増加していることから、高齢者に特化した治療の効果を検討することが重要である。一般的に用いられる治療法は、抗うつ薬と心理療法(会話による治療法)である。
このレビューに関心がある人は?
- うつ病をもつ人、その友人、家族、介護者
-開業医、精神科医、臨床心理士、心理療法士、薬剤師
-高齢者の精神保健サービスに携わる専門家
- イギリスの心理療法サービスへのアクセス改善に携わる専門家
このレビューでわかることは何か?
抗うつ薬を服用し、うつ病から回復した60歳以上の人において:
- 抗うつ薬による治療、心理療法、または両者を併用した継続的な治療は、プラセボ(偽の治療)やその他の治療と比べて、うつ病の再発予防に有効であるか?
- 抗うつ薬による治療、心理療法、または両者を併用した継続的な治療は、プラセボやその他の治療と比べて、有害であるかどうか?
レビューにはどのような研究が含まれるか?
2015年7月13日までに完了したすべての関連研究を見つけるため、医療データベースで検索を行なった。60歳以上の人のうつ病の再発予防について、抗うつ薬による治療、心理療法、あるいは両者の併用による治療を、プラセボまたは一般的な治療と比較している研究を対象とした。7つの研究が対象に含められ、参加者は803名であった。
6件の研究では、抗うつ薬とプラセボを比較していた。心理療法を含めていた研究は2件のみであった。研究によって、実施方法や参加者の数、参加者の種類が異なっていた。
このレビューのエビデンスからわかることは?
抗うつ薬を1年間継続して服用することで、うつ病が再発するリスクは61%から42%に減少したが、他の治療期間では効果は検証できなかった。参加者の脱落数(参加をやめた人数)で評価した場合、抗うつ薬による治療はプラセボよりも有害ではなかった。心理療法の有益性については、研究が少ないため明らかにならなかった。エビデンスの質は低かった。
研究参加者の多くは女性であった。75歳以上の人はほとんどいなかった。ほとんどの人は、元々うつ病の治療を外来で受けており、うつ病の重症度は高くはなかったといえる。
研究では、(三環系抗うつ薬と呼ばれる)旧型の薬と(選択的セロトニン再取り込み阻害薬:SSRIと呼ばれる)新型の薬の両方が用いられていた。心理療法には、人間関係の障害に働きかける対人関係療法と、活動の低下や自己否定的な思考パターンに働きかける認知行動療法が含まれていた。
次に何をするべきか?
このレビューでは、抗うつ薬を1年間継続することは、新たな有害事象を伴わず、うつ病の再発リスクを減少させることができるという限られたエビデンスが示された。しかし、レビューに含まれた研究の数や規模が限られているため、明確な提言を行うことはできない。また、これらの研究ではデザインや報告に限界があり、結果の代表性は低いだろう。同様に、再発予防における心理療法や、抗うつ薬と心理療法の併用についても、明確な結論を出すことはできない。
今後、抗うつ薬や心理療法の有益性を明らかにするためには、より大規模な試験が必要である。また、今後の試験には、75歳以上の高齢者や、長期の身体疾患や軽度の記憶障害など日常的な臨床サービスにおいてよく見られる問題を持っている人たちも対象に含めるべきである。
《実施組織》瀬戸屋希、小林絵里子 翻訳[2020.7.31]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD006727.pub3》