歯槽骨炎(ドライソケット)に対する予防および治療の方法にはどのようなものがあるか?

要点

・抜歯前、または抜歯後24時間以内におけるクロルヘキシジンの洗口液によるうがいにより、ドライソケットを予防できる可能性がある。
・抜歯直後にクロルヘキシジンゲルを抜歯窩(歯を抜いた後の穴)に直接注入することにより、ドライソケットを予防できる可能性がある。
・クロルヘキシジンの洗口液には軽度の有害作用があるが、抜歯窩用のクロルヘキシジンゲルには有害作用は認められなかった。
・Alvogyl(訳者注:ドライソケット治療用の製剤。翻訳時、日本未販売)は、酸化亜鉛ユージノールよりもドライソケットの痛みを軽減する作用が強いが、そのエビデンスは非常に不確実である。
・Alvogylには、有害作用は認められなかった。
・今後のさらなる研究により、エビデンスを強化し、ドライソケットを予防および治療するための最適な方法を調査していく必要がある。

ドライソケットとは何か?

ドライソケットとは、歯を抜いた後に時々発生する痛みを伴う症状であり、下の智歯(親知らず)を抜いた後に起こりやすいと言われている。

ドライソケットの原因は何か?

歯を抜いた後に、抜歯窩の底にできる血餅(血が固まったもの)の一部または全部が失われることと関連していると考えられている。

ドライソケットを予防する方法は?

ドライソケットの予防法としては、口腔内(口の中)の食べかすや細菌の量を減らすことが挙げられるが、ドライソケットの根本的な原因は細菌ではない。しかし、口腔内の衛生状態が悪い人(食べかすや歯垢が多く溜まっている人)は、ドライソケットのリスクが高くなる。そのため、口腔内の衛生状態を改善することに加え、抜歯前または抜歯後24時間以内にうがいを行うことで、ドライソケットの発生率を低くすることができる。

ドライソケットの治療法は?

ドライソケットの主な治療方法は、痛みを緩和する作用のある薬剤(無痛化剤)を抜歯部に用いて、局所的な痛みを軽減することである。

何が知りたかったのか?

洗口液やゲル剤、または貼付剤の使用がドライソケットの予防に有用かどうかについて明らかにしたかった。また、抜歯窩への無痛化剤の使用がドライソケットの治療に有用かどうか、あるいは有害作用があるかどうかについて調査したいと考えた。

何を行ったのか?

洗口液や抜歯窩用のゲル剤を使用した場合と、プラセボ(偽薬)を使用した場合、あるいは何も行わなかった場合とを比較した研究を検索した。

また、ドライソケットの最適な治療方法を調査するために、さまざまな無痛化剤とプラセボ(偽薬)、他の無痛化剤を使用した場合、または何も行わなかった場合とを比較した研究を検索した。

研究結果をそれぞれ比較し、結果をまとめた。研究のデザインと被験者の数に基づいて、エビデンスに対する信頼性を評価した。

何が分かったか?

全部で49件の研究が見つかった。そのうち、ドライソケットの予防についての研究が39件(合計6,219人の参加者)であり、ドライソケットの治療についての研究が10件(合計552人の参加者)であった。

得られた知見は以下の通りである。

・抜歯前および抜歯後(24時間以内)に、グルコン酸クロルヘキシジン(0.12%および0.2%)の洗口液を使用すると、ドライソケットの発生が減少する可能性がある。
・クロルヘキシジンゲル(0.2%)を抜歯窩に使用すると、ドライソケットの発生が減少する可能性がある。
・クロルヘキシジンの洗口液およびゲル剤の使用は、どちらもドライソケットの予防に有効であるが、そのエビデンスは非常に不確実である。
・クロルヘキシジンの洗口液には、いくつかの軽度な有害作用が認められたが、抜歯窩用のクロルヘキシジンゲルには、有害作用は認められなかった。
・2件の研究から、Alvogyl(旧製剤)は、抜歯後7日目において、酸化亜鉛ユージノールよりもドライソケットの痛みを軽減する効果が高い可能性があるというわずかな、非常に確実性の低いエビデンスが得られた。また、このエビデンスは、現在販売が終了している旧製剤のAlvogylに関するものである。現在では処方が新しくなり、Alveogylという名称で販売されていることに注意すべきである。

抜歯処置は、さまざまな理由で、歯科医師によりごく一般的に行われているが、今回のレビューにおいては、5件の研究を除いて、参加者は智歯の抜歯を受けており、そのほとんどは口腔外科医により行われていた。

エビデンスの限界は何か?

エビデンスの主な限界は、以下の通りである。

・ほとんどが下の智歯の抜歯についての報告であったこと。
・結果に誤りを生じさせるような方法で研究が実施されていたこと。
・以上の要因の複合により、不正確な結果が生じていたこと。

クロルヘキシジンの洗口液およびクロルヘキシジンゲルに関連した研究結果にはある程度の信頼性が認められるが、上記の限界の存在により、今後の研究がこれらの効果の評価に対する信頼性に重要な影響を与え、そのために評価が変更される可能性がある。

このエビデンスはいつのものか?

2021年9月28日までに完了した研究に基づくエビデンスである。

訳注: 

《実施組織》小泉悠、杉山伸子 翻訳[2022.10.15]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD006968.pub3》

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