精神療法と抗うつ薬の他に、うつ病患者が気分をコントロールするのに有用な選択肢を追加することは、不安が関与している場合特に重要である。薬剤の選択肢の一つは、ベンゾジアゼピン系薬剤のアルプラゾラムである。うつ病に対するアルプラゾラムの効果を評価した。現在入手可能な最良のエビデンスでは、大うつ病の治療においてアルプラゾラムはプラセボに比べてやや有効であり既存の抗うつ薬とは同程度に有効であった。これがアルプラゾラムの特異的な抗うつ効果によるものか、睡眠と不安に対する非特異的な効果によるものか結論できなかった。比較的少数の短期的副作用があった。しかし、スポンサーバイアス、出版バイアス、研究の古さ、結果の異質性などの現在入手可能なエビデンスの複数の欠点により、これらの所見の信頼性は限定的である。
アルプラゾラムは、プラセボに比べて有効にうつ病症状を低減させ、三環系抗うつ薬と同程度の有効性と考えられた。しかし本レビューに選択した研究には、異質性が存在し、研究の質も低く、短期的効果のみを対象としていたため、本所見の信頼性は限定的である。すべての理由による投与中止率がアルプラゾラムとプラセボとでは変わらないようであった一方、既存のあらゆる抗うつ薬をあわせた群に比べてアルプラゾラム群での中止頻度が低かったことから、ベンゾジアゼピン系薬剤の依存性を考えると、これらの所見の解釈には注意を要する。
うつ病に対するアルプラゾラムの「適応外」の効果について、システマティックな評価は行われていない。
外来およびプライマリ・ケア患者を対象に、プラセボおよび既存の抗うつ薬と比較した場合の大うつ病に対するアルプラゾラム単剤療法の忍容性と許容性を含む抗うつ効果を検討すること。
Cochrane Central Register of Controlled Trials、およびコクラン・ライブラリ(全年~2012年2月)、EMBASE(1970~2012年2月)、MEDLINE(1950~2012年2月)、PsycINFO(1960~2012年2月)の各文献データベースに登録された関連性のあるランダム化比較試験(RCT)を含むCochrane Depression, Anxiety and Neurosis Group Registerを検索した。2名のレビューアが可能性のあるすべての研究の抄録を評価して、関連性のある試験を同定した。言語の制限は設けなかった。
入院患者のみの研究を除外し、成人のうつ病を対象にアルプラゾラムとプラセボまたは既存の抗うつ薬とを比較したRCTを選択した。
2名のレビューアが別々にデータを抽出し「バイアスリスク」を評価し、不一致は第三のレビューアと討議して解決した。主要アウトカムは、抑うつ症状を連続指標でみた際の、抑うつ症状の低下の平均差(MD)、及び二値指標に基づいた臨床反応のリスク比(RR)とそれぞれの95%信頼区間(CI)とした。
参加者総数2,693名の21件のアルプラゾラム研究(報告22件)を同定した。7件の研究はプラセボを用い(771名)、20件は環系抗うつ薬を用いていた(1,765名)。研究期間は典型的には、4~6週であった。6件の研究で、バイアスは高リスクと評価された。
症状の改善についてアルプラゾラムをプラセボと比べた場合、すべての推定値はアルプラゾラムの有効性を示した。有効性データの統合推定値は、試験終了時で中等度の平均差(MD)が認められた(-5.34、95%CI -7.48~-3.20;I2 = 68%)。臨床反応(50%の改善)についての二値指標のリスク差(RD)は0.32で、アルプラゾラムが好ましく(95%CI 0.22~0.42;I2 = 0%)、治療必要数(NNTB)は3(95%CI 2~5)であった。 すべての理由による投与中止についてのRDはアルプラゾラムとプラセボで差を認めなかった。
うつ病重症度を連続的指標で測定した場合、アルプラゾラムの効果はあらゆる既存の抗うつ薬をあわせた効果と、統計学的かつ臨床的に変わらなかった(MD 0.25、95% CI -0.93~1.43;I2 = 55%)。しかし、うつ病重症度を二値指標でみた場合には、抗うつ薬に比べてアルプラゾラムの方が効果が少なかった(RR 0.86、95%CI 0.75~0.99;I2 = 37%;RD -0.11、95%CI -0.24~0.01;I2 = 58%;治療必要数 9、95% CI 4~100)。すべての理由による投与中止についてのRDは-0.04(95% CI -0.07~0.00;I2 = 35%)でアルプラゾラムが好ましい結果であった。
《実施組織》三浦 智史監訳 厚生労働省委託事業によりMindsが実施した。[2012.11.14]
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《CD007139》