本レビューにより、ルーチンの術前検査は白内障手術の安全性を増加しないことが示された。医療従事者による病歴聴取や身体診察の代替となりうる患者自身による健康質問紙法など、ルーチンの術前医学検査に代わる方法が提案されている。そのような方法によって、白内障手術による医学的有害事象リスクが上昇する患者を同定する、費用対効果の高い方法が得られる可能性がある。しかし、さまざまな状況で白内障手術を受ける高齢者の多数が複数の医学的共存疾患を有しているため、発現はまれであるものの、白内障手術により発現する医学的有害事象は依然として懸念となっている。本レビューで概略を述べた研究により、少なくとも先進国という状況での白内障手術の標準的診療に対する勧告を補助すべきである。残念なことに、発展途上国の状況では、慢性疾患の診断はおろか医師の診察を受けたことがある人もほとんどいないことから、病歴の質問紙法は、リスクのスクリーニングに役に立たないと考えられる。
白内障手術は世界中で実施されており、かなりの資源が発展途上国の白内障手術率上昇に注がれている。現在の白内障手術症例数と今後の増加に伴い、本手術の安全性と費用対効果を至適化することが重要である。大半の白内障手術は、全身性および眼科的な共存疾患があることが多い高齢者で実施されている。ルーチンの術前医学検査により医学的問題が検出される可能性があるが、これらの問題により白内障手術を回避する、あるいはその周術期管理を変更する必要があるかについては疑問がある。
(1)術前医学検査による有害事象の減少についてのエビデンスを検討すること、(2)ルーチンの医学検査を実施する平均的費用を推定すること
CENTRAL(Cochrane Eyes and Vision Group Trials Registerを含む)(コクラン・ライブラリ2011年第12号)、MEDLINE(1950年1月~2011年12月)、EMBASE(1980年1月~2011年12月)、Latin American and Caribbean Literature on Health Sciences(LILACS)(1982年1月~2011年12月)、metaRegister of Controlled Trials(mRCT)(www.controlled-trials.com)、ClinicalTrials.gov(www.clinicaltrials.gov)およびWHO International Clinical Trials Registry Platform(ICTRP)(www.who.int/ictrp/search/en)を検索した。日付と言語の制限を試験の電子的検索において設けなかった。最新の電子的データベース検索日は2011年12月9日であった。その後追加された研究の検索には、参考文献リストおよびScience Citation Indexを用いた。
加齢白内障手術前に、ルーチンの術前医学検査を無術前検査または選択的術前検査と比較しているランダム化臨床試験を選択した。
2名のレビューアが別々に抄録を評価し選択可能な試験を同定した。選択した各研究について、2名のレビューアが別々に研究特性を記録し、データを抽出し、方法論的質を評価した。
本レビューに選択した3件のランダム化臨床試験の報告によると、白内障手術総数は21,531件、手術関連の医学的有害事象総数は707件で入院61件と死亡3件を含んでいた。707件の報告された医学的有害事象中、353件は術前検査群、354件は無検査群に発現した。大半の事象は心血管系事象で術中に発現していた。ルーチンの術前医学検査は、選択的検査または無検査に比べて、術中医学的有害事象リスク(OR 1.02、95%CI 0.85~1.22)および術後医学的有害事象リスク(OR 0.96、95%CI 0.74~1.24)を低下しなかった。費用節約は1件の研究で検討されており、術前医学的検査を受けた患者は受けなかった患者に比べて2.55倍費用がかかると推定された。2件の研究の報告によると、術前医学検査を受けた患者と受けなかった患者または限定的な術前検査を受けた患者との間に、手術の中止について差はなかった。