背景
てんかんは、約100人に1人が罹患するといわれている神経疾患である。そのうち約30%は、現在使用されている抗てんかん薬ではてんかんのコントロールができず、薬剤抵抗性てんかんと言われている。薬剤抵抗性てんかんの多くは、発作が脳の特定の部位で始まる焦点性である。ビガバトリンは、他の抗てんかん薬に加えて服用することを意味する、薬剤抵抗性焦点性てんかんのアドオン療法として使用できる抗てんかん薬である。
主な結果
薬剤抵抗性焦点性てんかん患者に対するビガバトリンの追加投与を検討した756名を対象に行われた臨床試験が11件あった。10歳から64歳までの人たちが臨床試験に参加し、ビガバトリンを1g/日から6g/日まで投与した。
その結果、ビガバトリンを投与された人は、プラセボ(偽薬)を投与された人に比べて、発作の頻度が50%以上減少する可能性が2~3倍高くなることがわかった。また、ビガバトリンを投与された人は、プラセボを投与された人に比べて、最大で3倍も治療をやめてしまう可能性があることを示唆した。ビガバトリンを投与された人は、プラセボを投与された人に比べて、めまい・軽い頭痛、疲労感、眠気、抑うつ感などの副作用の経験が起こりやすかった。しかし、プラセボ投与群と比較して、運動失調(協調性、バランス、および言語に影響を及ぼす障害)、気分の悪さ(吐気)、視覚の異常、頭痛、二重に見えること(複視)、目の不随意運動(眼振)などが起こる可能性は高くないことが示唆された。
エビデンスの信頼性
すべての研究はバイアスのリスクが大きいと判断した。これらの研究では、被験者がどのように治療群に割り振られたかは説明されておらず、被験者がどの治療を受けているかを研究者が知っているかどうかも明らかにされていなかった。他の理由と合わせて、結果に対する信頼性(確信)が薄れた。全体として、報告した結果が信頼できるかどうかは、不確かであるか非常に不確かである。ビガバトリンの真の効果は、今回報告されたものとは大きく異なる可能性がある。
結論
ビガバトリンは、薬剤抵抗性焦点性てんかん患者の発作頻度を有意に減少させる可能性があるが、不確実である。ほとんどのエビデンスは成人から集められたものであるため、ビガバトリンの効果は小児では異なる可能性がある。対象となった臨床試験はすべて短期間であったため、ビガバトリンの長期的な効果については報告できない。重要なのは、長期的な研究のレビューで、ビガバトリンの長期使用が視覚障害の発生につながることが報告されていることである。
《実施組織》 冨成麻帆、 阪野正大 翻訳[2021.11.04]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD007302.pub3》