成人の慢性神経障害性疼痛に対するカプサイシンの皮膚貼付

要点

中等度の質のエビデンスにより、少数の帯状疱疹後神経痛がある人において、高濃度(8%)のカプサイシン貼付剤が中等度もしくは良好な鎮痛をもたらす可能性が示されている。また、極めて質の低いエビデンスでは、HIV性神経障害や糖尿病性末梢神経障害にも有益であることが示されている。

背景

神経障害性疼痛は、傷害や疾患による神経損傷で生じる。痛みが3カ月以上にわたりほぼ毎日ある場合、慢性とされる。カプサイシンはトウガラシの辛み成分である。カプサイシンは神経が痛みを感じないようにすることで、慢性の神経障害性疼痛を軽減すると考えられている。本レビューは2013年に発表された高濃度(8%)カプサイシン貼付剤に関するレビューの更新である。この貼付剤は、用心しないと最初に皮膚が焼けるような痛みを起こすことがあるため、十分に管理された診療所や病院で、しばしば局所麻酔後に貼付を行う必要がある。また、局所的な痛みの治療にのみ使用される。単回貼付で最長3カ月間痛みを軽減するように作られている。

試験の特性

中等度または重度の神経障害性疼痛のある成人を対象に、高濃度カプサイシンの効果を調べた研究について、科学的データベースを検索した。治療では、少なくとも8週にわたり効果を測定した。エビデンスは2016年6月現在のものである。

8件の研究が選択基準を満たし、このうち2件は今回の更新で新たに選択した研究であった。これらの研究は良好に実施された。

主な結果

2442例を対象とした7件の研究では、異なる種類の神経障害性疼痛(帯状疱疹後の痛みやHIV感染による神経損傷痛)がある少数の参加者において、治療による良好な鎮痛がみられ、おそらく、糖尿病に起因する神経損傷による足の痛みも軽減すると考えられる。カプサイシン群では10例中約4例に中等度以上の鎮痛がみられた一方、コントロール群では10例中3例であった。コントロールは同じように見える治療であるが、高濃度のカプサイシンを含まず、カプサイシンなし、もしくは極めて微量のカプサイシンを含むものであった。ヘルニア手術後に持続的な痛みがある参加者46例を対象とした1件の小規模研究では、コントロール群との差はないようであった。

この治療を受けるあらゆる人に発赤、灼熱感、痛みなど、一時的な局所の皮膚障害が生じる可能性がある。重篤な問題はまれであるとみられ、これらの試験では高濃度カプサイシン群と、極めて低濃度のカプサイシンやプラセボを用いたコントロール群に差はなかった。

利益の欠如により研究から脱落した人は、カプサイシン群よりもコントロール群でわずかに多かったが、副作用による脱落例について両群に差はなかった。

エビデンスの質

鎮痛に関するアウトカムについて、エビデンスの質を中等度または極めて低いと判断したが、主な理由は、各アウトカムの情報について研究数が少なく、参加者数もやや少ないことであった。有害作用に関するエビデンスの質は中等度と判断した。中等度の質とは、今後の研究で結果が変わる可能性があることを意味する。極めて低い質とは、結果が非常に不確かなものであることを意味する。

著者の結論: 

帯状疱疹後神経痛、HIV性神経障害、および疼痛を伴う糖尿病性神経障害の治療を目的とした高濃度カプサイシンの局所貼付では、カプサイシン濃度がはるかに低いコントロール治療よりも、中等度または大幅な鎮痛が認められた参加者が多かった。エビデンスの質は中等度または極めて低いため、これらの結果の解釈には注意を要する。コントロールに対する有益性の割合は大きくなかったが、大幅な鎮痛が認められた参加者では睡眠、疲労、うつ病、生活の質も改善することが多かった。高濃度カプサイシンの局所貼付は、慢性疼痛に対する他の治療と同等の効果がある。

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背景: 

本レビューは、2013年第2号で更新された「成人の慢性神経障害性疼痛に対する局所への高濃度カプサイシン」の最新版である。カプサイシンの塗り薬は末梢神経障害性疼痛の治療に用いられている。皮膚に塗布すると、カプサイシンにより感受性が高まった後に低下し、塗布を繰り返すと持続的に脱感作する。高濃度(8%)のカプサイシン貼付剤は送達されるカプサイシン量を増やす目的で開発された。皮膚の侵害受容器がすぐに機能を奪われるため、迅速な送達により忍容性が高まるものと考えられる。単回貼付のため治療不遵守を防げる。8%のカプサイシン貼付剤のみが利用可能で、カプサイシン濃度は従来の塗り薬の約100倍である。局所への高濃度カプサイシンは、患部に単回貼付する貼付剤として投与する。最初は激しい灼熱感を起こすため、十分に管理された状況で、しばしば局所麻酔後に貼付を行う必要がある。効果は約12週間持続すると考えられ、その後2回目の貼付を行う場合もある。

目的: 

成人の慢性神経障害性疼痛に対する高濃度カプサイシン(8%)の局所貼付について、有効性と忍容性を調べた比較対照試験のエビデンスをレビューすること。

検索戦略: 

今回の更新に際し、CENTRAL、MEDLINE、Embase、2つの臨床試験登録、および製薬会社のウェブサイトを2016年6月10日まで検索した。

選択基準: 

神経障害性疼痛の治療を目的として、高濃度(5%以上)のカプサイシンを局所使用した6週間以上のランダム化・二重盲検・プラセボ対照試験。

データ収集と分析: 

2名のレビュー著者がそれぞれ研究を探し、有効性や有害事象のデータを抽出し、研究の質やバイアスの可能性を調べた。統合解析が可能な場合は、二値データを用いてリスク比を算出し、1つのイベントに対する治療必要数を標準的な方法で算出した。

有効性アウトカムには、単回貼付後の持続的な鎮痛を反映するものとして、特定の時点(通常は8週と12週)におけるPatient Global Impression of Change(PGIC)を用いた。また、2~8週と2~12週の平均疼痛スコア、疼痛強度がベースラインから30%以上または50%以上減少した参加者数、および有害事象と脱落例に関する情報について評価した。

GRADE 法によりエビデンスの質を評価し、「知見のまとめ」の表を作成した。

主な結果: 

2488例を対象とした8件の研究を選択した。本レビューの旧版よりも2件、415例多い。研究の方法論的な質は全般的に良好で、1件のみが小規模であったためバイアスのリスクが高いと判断した。2件の研究ではプラセボコントロールを使用し、6件では実薬プラセボとして0.04%のカプサイシン局所貼付剤を使用してブラインド化(盲検化)を維持した。有効性アウトカムの報告が一貫していないため、大半のアウトカムを不完全なデータに基づいて解析した。

帯状疱疹後神経痛について、4件の研究(1272例)を見出した。8週および12週に共に、実薬プラセボに比較して約10%多い参加者が高濃度のカプサイシンによって著しくまたは非常に著しく改善したと報告した;他の有益なアウトカムに対する治療必要数(NNT)の点推定値は、8週で8.8 (95%信頼区間 (CI) 5.3 - 26)および12週で7.0 (95% CI 4.6 - 15)であった(571例の参加者;中程度の質のエビデンス)。2~8週と2~12週の平均疼痛強度がベースラインから30%以上または50%以上減少した参加者は、カプサイシン群でコントロール群よりも約10%多く、NNT値は10~12であった(2~4件の研究、571~1272例、エビデンスの質は極めて低い)。

疼痛を伴うHIV性神経障害について、2件の研究(801例)を見出した。1件の研究では、12週時点で大幅に改善またはかなり大幅に改善した参加者の割合を報告した(高濃度カプサイシン群で27%、実薬プラセボ群で10%)。2件の研究で、2~12週の平均疼痛強度がベースラインから30%以上減少した参加者は、カプサイシン群でコントロール群よりも約10%多く、NNTは11であった(エビデンスの質は極めて低い)。

糖尿病性末梢神経障害について、1件の研究(369例)を見出した。この研究では、8週および12週の時点で大幅に改善またはかなり大幅に改善した参加者は、約10%多かったと報告した。鼠径ヘルニア縫合術後に持続的な疼痛がある参加者46例を対象とした1件の小規模研究では、疼痛の減少についてカプサイシン群とプラセボ群に差はなかった(エビデンスの質は極めて低い)。

疎データ、不正確性、補完法の影響、および出版バイアスに対する脆弱性により、有効性アウトカムに関するエビデンスの質を1~3レベル格下げした。

局所の有害事象はよくみられたが、一貫した報告ではなかった。重篤な有害事象は実薬治療群(3.5%)とコントロール群(3.2%)で同程度であった。イベント数は少ないものの、有害事象による脱落では両群に差はなく、有効性の欠如による脱落は実薬治療群よりもコントロール群でやや多かった(6~8件の研究、21~67件のイベント、エビデンスの質は中等度、イベント数が少ないため格下げ)。試験治療に関連する死亡はないと判断した。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2018.2.28]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。
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