がんでも頭痛でもない、持続的で苦しい痛みを持つ成人に対する心理療法の効果とリスクは?

この研究疑問が重要である理由

がんでも頭痛でもない痛みが3ヶ月以上続く人も少なくない。診断と痛みの緩和のための検査は時間がかかることもあり、落胆させられることもある。痛みが続くと、身体障害、うつ病、不安、社会的孤立につながる人もいる。

心理的治療(会話療法や行動療法)は、痛みの管理方法を変えて、障害や苦痛を最小限に抑えることを目的としている。訓練を受けた心理士がこれらの治療法を提供した場合、どの程度の効果があるのか、また、望ましくない(有害な)効果があるのかを調べるために、研究におけるエビデンスを検討した。

エビデンスの確認・評価方法

まず、医学文献に掲載されているすべての関連研究を検索した。その後、結果を比較し、すべての研究のエビデンスをまとめた。最後に、エビデンスの質を評価した。研究の実施方法、研究の規模、研究間における知見の一貫性などの要素を考慮した。これらの評価に基づき、エビデンスの質は非常に低い、低い、中程度または高いと評価した。

わかったこと

その結果、線維筋痛症、慢性腰痛症、関節リウマチなど、さまざまな慢性疼痛を持つ9,401人を対象とした75の研究を特定した。参加者の平均年齢は50歳で、痛みを感じていた期間は平均9年であった。これらの研究では、治療終了後、最長で3年間の追跡調査が行われた。

認知行動療法(CBT、59の研究)、行動療法(BT、8の研究)、アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT、5の研究)、他の心理療法(6の研究)の心理療法を評価した。評価対象となった主な治療法であるCBTについての結果を報告していく。CBTは、症状を改善するために、考え方や行動を変えることに焦点を当てている。結果は調査対象となった集団全体の平均値であり、集団内の個人は平均値よりも大きく、あるいは小さく変化する可能性がある。

エビデンスから分かったことは以下の通りである:

- 平均して、CBTで治療を受けた人は痛みに対して何も治療を受けていない人と比較すると、治療終了時および6~12ヵ月後の痛みや苦痛がわずかに少なくなると考えられる(中程度の質のエビデンス)。また、平均して障害がわずかに少なくなる可能性がある(低い質のエビデンス)。

- 平均して、CBT治療を受けた人は、痛みに対して心理学的ではない治療(運動プログラムや痛みの管理に関する教育など)を受けた人と比較して、治療終了時までに痛み、障害、苦痛がごくわずかに減少すると考えられる(中程度の質のエビデンス)。平均して、6~12ヵ月後には、痛みや苦痛がごくわずかに軽減されていると考えられるが(中程度の質のエビデンス)、障害のレベルは、心理学的ではない治療を受けた人たちと同様になる可能性がある(低い質のエビデンス)。

エビデンスの質が非常に低いため、CBTが無治療や他の治療法と比べて、副作用の数が多いのか、少ないのか、あるいは同程度なのかはわからない。

結果が意味すること

CBTは、検討した持続する痛みに対する心理療法の中で、最もよくエビデンスに基づいている。エビデンスが示すことは以下の通りである:

- 平均して、無治療または非心理学的治療と比較した場合、CBTは痛みや苦痛を少量または非常に少量だけ軽減する可能性がある。

- CBTは、無治療と比較して、治療終了時の障害レベルを平均してわずかに軽減できる。CBTは心理療法以外の治療法と比較して、治療終了時の障害を平均してごくわずかに軽減する可能性がある。

- 平均して、CBTは無治療と比較して、治療後6~12ヶ月後の障害にわずかな違いをもたらす可能性がある。しかし、心理療法以外の治療法と比較すると、平均的にはほとんど差がない可能性がある。

持続性のある痛みの治療に対するCBTおよび一般的な心理療法のリスクについて、結論を出すには十分なエビデンスがない。

このレビューの更新状況

このコクラン・レビューに掲載されているエビデンスは、2020年4月までのものである。

訳注: 

《実施組織》 冨成麻帆、 阪野正大 翻訳[2021.05.11]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD007407.pub4》

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