レビューの論点
多嚢胞性卵巣症候群(polycystic ovarian syndrome:PCOS)の低受胎性女性における生児出生率および有害事象に対する中薬(中医学の薬草療法、Chinese herbal medicine:CHM)の効果に関する科学的根拠(エビデンス)のレビューを行った。
背景
PCOSは複合的な生殖内分泌疾患として多く認められ、妊娠可能年齢の女性の5%から10%が罹患する。PCOS患者は月経不順、低受胎性(妊娠失敗)、多毛症(体毛が過度に伸長)、座瘡(にきび)および肥満を呈する場合がある。PCOSの治療には、経口避妊薬、クロミフェン(女性の排卵を誘発する薬)、インスリン抵抗性改善薬(血糖値を正常範囲に戻す薬)、腹腔鏡下卵巣穿孔術(laparoscopic ovarian drilling:LOD)など、多くの西洋医学的治療法が用いられてきている。 中薬は、PCOSの低受胎性女性に対する代替治療法として提唱されている。PCOSの低受胎性女性において中薬を他の治療法と比較した場合の有効性および安全性について検討した。
研究の特性
一般的に使用されているデータベースで科学的根拠(エビデンス)を検索した。エビデンスは2020年6月現在のものである。8件のランダム化比較試験(randomised controlled trials:RCT)、609例の参加者を対象とした(このうち今回のアップデートレビューでは、新たに3件のRCT、195例の女性を対象としている)。これらの研究には、中薬と西洋医学を比較したもの、中薬と西洋医学の併用を西洋医学単独と比較したもの、中薬と手術の併用を手術単独と比較したものが対象であった。対象となった研究のうち7件は中国語で実施・報告され、残りの1件は英語であった。すべての研究は、治療期間が6月経周期より短く、フォローアップ期間が1年未満であった。対象となった研究のうち、生児出生を報告したものはなく、妊娠を報告したものはすべて、排卵を報告したものは2件、有害事象を報告したものは1件のみであった。
主要な結果
PCOSの低受胎性女性に中薬を使用することを支持するエビデンスは不十分であった。出生(数)に関するデータはなかった。中薬が受胎アウトカムを改善させることを示す一貫したエビデンスは得られなかった。
中薬をクロミフェン(両群ともLODありまたはなし)と比較した結果、妊娠率に群間差は認められなかった。中薬と卵胞吸引・排卵誘導を併用した場合と、卵胞吸引・排卵誘導のみの場合では、妊娠率に群間差は認められなかった。中薬とLODの併用をLODのみと比較した場合、妊娠率に群間差は認められなかった。エビデンスの確実性が非常に低かったため、結果について結論を出すことができなかった。
しかし、クロミフェンに中薬を追加することで妊娠率が向上する可能性を示唆する、確実性の低い限定的なエビデンスが得られた。
すべてのアウトカムについて、すべての比較群で確実性が非常に低いエビデンスであったため、結論を出すことができなかった。有害事象に関して中薬の安全性を示すエビデンスは不十分であった。
エビデンスの確実性
このため、エビデンスの確実性は低いまたは非常に低いと判断した。エビデンスの主な限界は、生児出生率および有害事象の報告がないこと、試験方法の詳細が十分に記載されていないこと、およびイベント発現率が非常に低く、信頼区間の幅が広いという不精確さであった。
《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2021.11.12] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD007535.pub4》