肝移植患者に対する栄養学的介入

肝移植待ちの患者にとって栄養不良は一般的な症状であり、肝移植後の病状および死亡のリスクファクターである。栄養状態は、術前の栄養不良、手術のストレス、免疫抑制療法、および患者によれば肝機能や腎機能の障害や敗血症が原因で術後急速に悪化する場合がある。肝移植待機者リストの患者の栄養学的介入には、分岐鎖アミノ酸も含有する肝適応製剤や追加蛋白、脂肪、炭水化物を補充する栄養剤がある。肝移植後の栄養学的介入には、非経口または経腸栄養摂取および術後の経口栄養補充がある。

13件のランダム化比較試験を扱ったシステマティック・レビューでは、肝移植患者の栄養学的介入の有益な効果を確証するエビデンスはないことがわかった。従って特異的に推奨する治療介入はない。肝移植前後の患者にとって効果のある栄養学的介入を確定するためには、さらに研究する必要がある。

著者の結論: 

肝移植の患者にとって利益が確実である栄養学的介入を確定するのは不可能であった。さらなるリスクバイアスの低いランダム化比較試験および強力なサンプルサイズが必要である。

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背景: 

栄養不良は同所性肝移植待機者リストの患者にとって一般的な症状であり、また移植後の罹病率のリスクファクターとなる。どの患者にいつ経腸または非経口栄養摂取を開始するかの決定は現在もまだ議論中である。肝移植前または後あるいは前後両方での栄養剤の効果もいまだ明らかでない。

目的: 

本レビューの目的は、経腸および非経口栄養摂取や肝移植前後の患者への経口栄養剤投与が有益であるかどうかを評価することである。

検索戦略: 

Cochrane Hepato-Biliary Group Controlled Trials Register (2012年3月号)、Cochrane Central Register of Controlled Trials (2012年第2号(全12号)、コクラン・ライブラリ)、MEDLINE (1946年1月~ 2012年3月)、EMBASE (1974年1月 ~2012年3月)、 Science Citation Index Expanded (1900年1月 ~ 2012年3月)、 Social Science Citation Index (1961年1月 ~2010年10月)、 および論文の参考文献を検索した。この分野の業者および専門家にもコンタクトをとり、関連する雑誌や会議の議事録も精査した(1997年~2010年10月)。

選択基準: 

肝移植前後の、患者に対する経腸または非経口栄養摂取、または経口栄養剤の有効性を評価するランダム化並行またはクロスオーバー比較試験を適切であると選択した。

データ収集と分析: 

2名の著者が独立して試験のリスクバイアスを評価し、データを抽出した。二項データをオッズ比(OR)として、連続データを平均差(MD)として95%信頼区間(CI)で記録した。治療介入の臨床に関する異質性により、メタアナリシスは不可能であった。

主な結果: 

13件の試験が選択基準に合致した。4件の公表文献にはレビュープロトコルで事前に定義した転帰の記録はなく、その他の臨床的に関連する転帰および追加データも得られなかった。9件の試験からレビューのためのデータを得ることができた。選択した13件の試験のほとんどが小規模でバイアスのリスクが高かった。治療介入の臨床に関する異質性により、メタアナリシスは不可能であった。

有益であると思われる治療介入は見られなかった。

治療介入の未知の有効性について

術後非経口栄養摂取に比べて術後経腸栄養摂取の方が臨床転帰に関して利益あるいは害に何の効果もないようであった。また蛋白、脂肪、炭水化物およびアラニルグルタミン含有または非含有分岐鎖アミノ酸を含む非経口栄養摂取も、5%D形グルコース溶液および生理食塩水と比べて、1~3年生存の転帰に何ら効果がないようであった。Supportan®を経腸免疫栄養剤とした場合、Fresubin®を経腸栄養剤とした場合に比べて免疫学的拒絶反応発現に何ら効果がないようであった。

肝移植待機期間中に患者の通常の食事に栄養剤を追加すると、標準食事療法指導に比べ肝移植後の臨床転帰に効果があったという弱いエビデンスがある。グルタミンジペプチド、非経口栄養摂取、経腸栄養摂取の混合治療は、標準非経口栄養摂取に比べて肝移植後の入院期間を短縮することに効果があるようであった (平均差(MD) -12.20日; 95% CI -20.20~-4.00)。非経口栄養摂取+分岐鎖アミノ酸は、標準非経口栄養摂取のみに比べ臨床転帰に効果があるが、いずれも標準グルコース溶液に比べると集中治療室の滞在期間を短縮する効果があったという弱いエビデンスがある (MD -2.40; 95% CI -4.29~-0.51およびMD -2.20日; 95% CI -3.79~-0.61)。オメガ3魚油を非経口栄養摂取に追加すると、肝移植後の入院期間が短縮し(平均差-7.1日; 95% CI -13.02~-1.18)、 肝移植後の集中治療室滞在も短縮した(MD -1.9日; 95% CI -1.9 ~-0.22)という弱いエビデンスもある。

有益でありそうでない治療介入については、通常の食事だけより栄養剤Ensure®を投与する方が、脳障害歴のある栄養不良患者においては急性拒絶反応のリスクが有意に高まるという報告がある (MD 0.70患者1例に対するイベント; 95% CI 0.08 ~1.32) 。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2016.1.5]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。

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