大腸癌(腸管の癌)は、世界で3番目に多く診断される癌である。病期が初期の患者では手術が第一の治癒的処置である。しかし、最初の手術後多数の患者に再発がみられ、おそらくこれは体の他の部位に広がった癌細胞を検出できなかったためである。一般に、一度拡がった大腸癌はもはや根治可能ではない。よって、患者の治癒する確率を改善するため、残った細胞を除去するアジュバント治療を手術前後に実施する。 ヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2RA)は消化性潰瘍の治療として本来開発された。しかし、症例報告によるとこれらの薬剤の使用により腫瘍退縮がみられた。このため、大腸癌手術後患者の治癒する確率を改善するためこれらの薬剤を使用できるか検討する多数の試験が開始された。 このコクラン・レビューでは、この方法を採用している6件の研究を認めた。H2RAについてa)用いた投与量、b)手術との時間的関係、c)投与期間に大きいばらつきがあった。試験結果を統合して解析した場合、これらの薬剤の使用による生存利益は認められないようであった。シメチジン(理論上、腫瘍拡大防止作用の追加的機序を有する特定のH2RA)を使用した研究を解析した場合、シメチジン投与患者に対し生存利益があるようであった。 試験間のばらつきを考慮すると、このアプローチでの強固なエビデンスに反し、結果は推論にすぎないと考えられる。さらに、これらの試験が実施されたのは、病期と治療に対するアプローチが今日の標準からみて至適以下と思われる時期であった。このため、今後さらなる試験が必要である。
検討したH2RAのうち、シメチジンは大腸癌の治癒的外科切除に対するアジュバント治療として投与した場合に生存利益を示したようであった。試験デザインには異質性があり、アジュバント治療はこれらの試験実施以降進化している。さらなる前向きのランダム化研究が必要である。
ヒスタミンH2受容体拮抗薬(H2RA)による腫瘍退縮の症例報告により、切除大腸癌患者を対象にこの薬剤をアジュバント治療として投与しアウトカムを改善させる一連の試験が実施されるようになった。この治療の長所を示唆する妥当な科学的論拠が認められている。それは、免疫監視機構の改善(腫瘍浸潤リンパ球の増加による)、大腸癌の成長因子としてのヒスタミンの直接的増殖効果の阻害、シメチジンではE-セレクチン(転移拡大に重要と想定される細胞接着分子)の内皮発現の阻害などがある。
治癒目的で外科的切除を受けた大腸癌患者における術前または術後、もしくは術前後療法としてH2RAを用いた場合、全生存が改善するか検討すること。使用した特定のH2RAで全生存の改善があるかを検討するため結果を層別化した。
以下のデータベースにおいて高感度の検索法を用いてランダム化比較試験(RCT)を同定した:MEDLINE(1964年~)、Cochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL、コクラン・ライブラリ2009年)、EMBASE(1980年~)、Cancerlit(1983年~)。
研究の選択基準: 治癒目的で外科的に切除された大腸癌の患者のうち 1)用量、2)投与期間、3)他の治療との併用、4)術前、周術期、術後、を問わずH2RAが使用された患者を選択した。使用したH2RAの種類により結果を層別化した。
文献検索により142件の論文を回収した。最終解析には、1995~2007年発表の患者総数1,229名の6件の研究を組み入れた。全患者を最初の割付けに従ってITT解析を実施した。Cochrane statistical package RevMan Version 5を用いて、ログハザード比と投与効果の標準誤差(全生存について)を算出した。ハザード比と標準誤差は試験発表から記録したが、提示がない場合は、発表された保険数理分析の生存曲線からこのためにデザインしたスプレッドシートを用いて推定した(http://www.biomedcentral.com/content/supplementary/1745-6215-8-16-S1.xls)。
同定した6試験のうち、5件は実験的H2RAとしてシメチジンを使用し、1件はラニチジンを使用していた。大腸癌の治癒を目的とした外科手術を受けた患者のアジュバント治療としてH2RAを利用した場合、生存改善傾向がみられた(HR 0.70、95%CI 0.48~1.03、P = 0.07)。シメチジンの5試験(421名)の解析では、全生存の統計学的に有意な改善が示された(HR 0.53、95%CI 0.32~0.87)。