レビューの論点
ポリオ後症候群(PPS)の患者に対するさまざまな治療の効果は?
背景
PPSは、ポリオウイルスの最初の攻撃による麻痺から回復したサバイバーが、何年も経過してから発症する可能性がある疾病である。PPSの特徴は、過去にポリオ感染を受けた筋肉および感染を受けていないと考えられる筋肉における進行性もしくは新規の筋力または筋持久力の低下である。このほか、全身疲労、疼痛などの症状が認められる。これらの症状は多くの場合、歩行障害など身体機能の低下を招く。本レビューの目的は、さまざまな薬物およびリハビリテーションの有益性および有害性をプラセボ(生理学的作用が認められない錠剤または手技)、通常ケアまたは無治療と比較評価することであった。
試験の特性
PPSの治療に関するすべての研究を同定するため、科学データベースを2014年7月まで検索した。本レビューの対象とするのに十分な質の高さを有する13件の試験(参加者計675名)を同定した。10件の試験では薬物(モダフィニル、イムノグロブリン静注[IVIg]、ピリドスチグミン、ラモトリギン、アマンタジン、プレドニゾン)の効果を評価し、3件の試験では他の治療法(筋力強化、温暖条件下(±25°C、乾燥、晴天)および寒冷条件下(±0°C、雨または雪)でのリハビリテーション、静磁場)を評価した。
主な結果およびエビデンスの質
IVIgでは、ドナー血液から精製した抗体を時間をかけて静脈に注入する。短期試験および長期試験では、IVIgは活動制限に対して有効性が認められないという中等度の質のエビデンスおよび質の低いエビデンスがそれぞれ得られた。試験によって結果が異なったため、筋力に対する有効性に関する一貫したエビデンスは得られなかった。IVIgによって多数の参加者に軽度の副作用が認められた。
ラモトリギンは特定のてんかんの制御に有効な薬物で、双極性障害の治療にも使用される。1件の試験結果から、ラモトリギンが疼痛および疲労の軽減に有効で、活動制限が減少するという極めて質の低いエビデンスが得られた。この試験ではラモトリギンの忍容性は高かった。この結論は1件の小規模試験の結果のみに基づいており、試験デザインには重要な限界が認められた。
母指の筋力強化が安全かつ有効な筋力改善法であるという極めて質の低いエビデンスが得られた。この結論も、1件の小規模試験の結果のみに基づいており、試験デザインには重要な限界が認められた。また、この知見は母指の筋肉にのみ適用可能である。
静磁場は、疼痛緩和を目的に皮膚に電流を流す治療法である。静磁場が施術直後の疼痛緩和に安全かつ有効な方法であることを示す中等度の質のエビデンスが得られた。しかし、活動制限に対する機能的な効果および長期的な効果は不明である。
最後に、PPS患者に対し、モダフィニル、ピリドスチグミン、アマンタジン、プレドニゾンおよび温暖または寒冷条件下でのリハビリテーションの有益性は認められないという、極めて質の低いエビデンスから質の高いエビデンスまでさまざまなエビデンスが得られた。
質の高いデータやランダム化試験が不足していたため、PPSに対する介入の有効性について明確な結論に達することができなかった。IVIg、ラモトリギン、筋力強化運動および静磁場は有益な可能性があるが、現実的で意義のある効果が存在するかどうかを明確にするには、さらに研究を行う必要がある。
ポリオ後症候群(PPS)は麻痺型ポリオのサバイバーに認められ、身体機能の低下につながる複雑な神経筋症状 が特徴である。PPSに対する薬物治療およびリハビリテーション管理の有効性は確立されていない。これは2011年に初めて発表されたレビューの最新情報である。
PPSに対する薬物療法または非薬物療法の効果をプラセボ、通常ケアまたは無治療と比較したランダム化比較試験および準ランダム化比較試験から得られたエビデンスのシステマティックレビューを実施すること。
以下のデータベース、Cochrane Neuromuscular Disease Group Specialized Register、Cochrane Central Register of Controlled Trials (CENTRAL)、MEDLINE、EMBASE、PsycINFOおよびCINAHL Plusを2014年7月21日に検索した。すべての関連文献について参考文献一覧の確認を行い、Database of Abstracts of Reviews of Effects (DARE)、Health Technology Assessment (HTA) Databaseおよび試験レジストリを検索し、当該分野の研究に関与した研究者に問合せを行った。
PPS患者に対し薬物療法または非薬物療法を検討したランダム化試験および準ランダム化試験。主要アウトカムは主観的活動制限で、副次アウトカムは筋力、筋持久力、疲労、疼痛および有害事象であった。
コクランで規定されている標準法を用いた。
合計675名のPPS患者が参加した、10件の薬物療法試験(モダフィニル、イムノグロブリン静注[IVIg]、ピリドスチグミン、ラモトリギン、アマンタジン、プレドニゾン)および3件の非薬物療法試験(筋力強化、温暖条件下(±25°C、乾燥、晴天)および寒冷条件下(±0°C、雨または雪)でのリハビリテーション、静磁場)を本レビューの対象とした。対象試験にはなんらかのバイアスのリスクが認められ、不適切な盲検化に関するバイアスのリスクが最も多かった。
短期試験および長期試験では、IVIgは活動制限に対して有効性が認められないという中等度の質のエビデンスおよび質の低いエビデンスがそれぞれ得られた。また、筋力に対する有効性を示すエビデンスには矛盾が認められた。IVIgによって多数の参加者に軽度の有害事象が発現した。1件の試験では、ラモトリギンが疼痛および疲労の軽減に有効で、活動制限の減少につながり、有害事象は認められないという、極めて質の低いエビデンスが得られた。2件の単一試験では、母指の筋力強化(極めて質の低いエビデンス)および静磁場(中等度の質のエビデンス)がそれぞれ筋力増強および疼痛緩和の安全で有益な方法であることが示唆されたが活動制限に対する効果は不明であった。最後に、PPS患者に対し、モダフィニル、ピリドスチグミン、アマンタジン、プレドニゾンおよび温暖または寒冷条件下でのリハビリテーションの有益性は認められないという、極めて質の低いエビデンスから質の高いエビデンスまでさまざまなエビデンスが得られた。
《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2018.2.28]
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