背景
むずむず脚症候群(下肢静止不能症候群・レストレスレッグス症候群)は、よくみられる疾患であり、下肢を動かしたくなる不快な衝動を引き起こす。このような衝動は夕方や夜間に起こり、熟睡の妨げとなりうる。むずむず脚症候群患者では、血中鉄濃度の低下がみられることが多い。血中鉄濃度の低下は、むずむず脚症候群の原因の一部である可能性がある。鉄は経口剤または注射剤で投与可能である。鉄治療によってむずむず脚症候群の症状が軽減するかどうかを検証するため、本レビューを実施した。
試験の特性
対象としたのは、鉄に関する試験10件であった。これらの10試験では、むずむず脚症候群患者428例が組み入れられた。すべての参加者で血中鉄濃度低下がみられたわけではなかった。すべての参加者が成人であった。 大半の試験では注射剤の鉄が使用されていたが、3件では経口剤が使用されていた。9試験において、鉄投与と非積極的治療(プラセボなど)が比較された。1試験では、鉄がドーパミン作動薬と呼ばれるもう1つのむずむず脚症候群治療薬と比較された。本レビューにおける主要な評価項目は、落ち着きのなさの重症度である。これは通常、国際レストレスレッグス症候群重症度評価尺度(International Restless Legs Syndrome Severity Rating Scale :IRLS)と呼ばれる、下肢を動かしたい衝動の重症度と影響に関する10項目の質問表で評価する。鉄の注射剤であれば投与後2〜4週間後、鉄の経口剤であれば12〜14週間後に評価する。
4試験は、製薬会社による資金提供を受けていた。2試験は、米国国立衛生研究所による資金提供を受けていた。2試験は、試験責任医師らの勤務先による資金提供を受けていた。2試験は、資金提供元について報告されていない。製薬会社による資金提供を受けていた4試験が最も大規模なものであった。製薬会社による資金提供を受けていた試験の参加者は、参加者総数の半数を占めていた。
主な結果とエビデンスの質
全般的に、むずむず脚症候群の症状の重症度を軽減する上で、鉄はプラセボよりも優れていることが試験で示されたが、ベネフィットは低〜中程度であった。これは主に、錠の経口剤よりも鉄の注射剤を使用した試験に基づいている。試験開始時に血中鉄濃度が正常であった場合でも、鉄は有用であった。完了済みのすべての試験が公表されたわけではないこと、すべての重要なアウトカムが評価されたわけではないこと、十分な数の被験者について評価されたわけではないことから、科学的根拠(エビデンス)の質は中等度であった。副作用は、プラセボよりも鉄で多くみられたというわけではなかった。ある1つの試験に基づくと、副作用の発生頻度は、むずむず脚症候群によく使用されるもう1つの薬剤よりも鉄剤の方が少なかった。ただし、この結果の正確性は非常に低い。むずむず脚症候群の治療薬としての鉄に誰が適しているか、鉄の種類や投与期間について、むずむず脚症候群患者や医師が判断するためにはさらなる試験が必要である。本エビデンスは2017年9月現在のものである。
《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2019.09.30]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD007834.pub3》