背景
統合失調症のような重度の精神疾患を有する人々は、思考プロセスに大きな障害が生じる可能性があり、妄想(現実に基づかない信念)や幻覚(実際にはないものが見えたり聞こえたりする)を引き起こし得る。統合失調症に対する主な治療(病状を最もサポートできる治療)は抗精神病薬物療法である。しかし、これらの薬物療法は常に奏功するわけではなく、心理社会的な治療(認知行動療法(CBT)など)を併用することが推奨されている。CBTは、その人が有する症状への考え方を、自分自身で再評価できるよう援助することを目的とした治療である。苦痛の軽減や行動の変容に役立つと考えられており、不安や抑うつを抱える人々に対して行われることが多い治療法である。しかし、CBTは費用が高い上に、特に統合失調症に対する効果についてはエビデンスが不明確である。
検索
Cochrane Schizophreniaの情報スペシャリストは、統合失調症患者に対し、CBTまたは標準的治療(臨床試験が行われた期間中、参加者の症状に対し標準的に行われた治療)のどちらかを受けるよう割り付けた2017年3月までの臨床試験specialised registerを検索した。1730件の記録が確認され、レビュー著者がそれらを監査、選別した。
主な結果
選別後、レビューに使用可能な臨床試験は60件であり、参加者は5992名となった。これらは、参加者に対し標準的治療のみを受ける人、標準的治療とCBTを受ける人をランダムに割り付けた研究であった。今回の我々の主な評価項目では、CBTを併用することへのエビデンスの質は非常に低い、または低いとなった。これらの結果は、統合失調症における長期的な症状再発リスクに対し、CBTを併用する効果が低いことを示した。2件の臨床試験(参加者82名)でのみ長期的な全体状態の評価に使用可能なデータが提供されており、これらのデータは、標準的治療のみを受けた場合に比べ、CBTを併用した方が長期的な全体状態の改善に効果的である可能性を示した。標準的治療にCBTを追加することは、有害事象のリスクを減らし得るが、長期的な精神状態については標準的治療のみを上回る利点が見られなかった。そのため、CBTを併用することが患者のQOLまたは社会機能を改善するかどうかは依然として不明瞭である。
結論
現在、統合失調症患者に対する標準的治療にCBTを追加する効果について、入手可能なエビデンスは不明確であり、明確な結論を導くには不十分である。
《実施組織》河合弘樹 翻訳、岡久裕子 監訳[2019.04.16.] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD007964》