脆弱X症候群(FXS)患者は軽度から重度の知的障害を有する。脆弱X症候群は最も多い遺伝性知的障害と考えられており、男性では約4000名に1名、女性では約8000名に1名が罹患すると推定されている。葉酸は脳の発達早期に特に重要であり、以降は正常な脳機能の維持に欠かせないメチル化に関与している。脆弱X症候群患者の細胞を葉酸非添加の液体培地で培養したところ、X染色体に脆弱部位が認められた。このため、脆弱X症候群患者は体内葉酸濃度が低いと考えられており、その原因は食事からの摂取不足、吸収不良または代謝障害が考えられる。食事由来の葉酸摂取量を補充することで、本疾患の発達障害や行動障害が改善する可能性が論じられてきた。
本レビューでは葉酸が脆弱X症候群患者の症状改善に役立つかどうか、また、副作用があるかどうかを調べた。5件のランダム化比較試験を同定した。いずれも1986年から1992年の間に発表されたものであった。これらの試験には69名が参加しており、参加者は全員が男性であった。1件の試験では葉酸投与群と対照群を比較した。他の4件の試験ではクロスオーバーデザイン(参加者は最初にある治療を受け、次に別の治療を受ける)が採用されていた。試験の報告の質は全体的に低く、特に使用した方法に関する報告の質が低かったため、試験のバイアスのリスクを評価することが困難であった。
数少ない既報の試験による結果では、精神的能力および学習能力や行動能力および社会的能力に対する葉酸およびプラセボの効果を標準化されたツールで測定したところ、有意差は認められなかった。したがって、脆弱X症候群患者に対し、食事由来の葉酸摂取量の補充を推奨する裏付けとなるエビデンスは得られていない。一方で、試験の数や質が問題となり、葉酸が有用ではないという確かな結論を導くことはできない。
脆弱X症候群患者の知的能力、行動能力、精神的能力または学習能力は、さまざまな社会的要素の影響を強く受けるため、今後の研究では、家庭環境の変化、適切な行動学的介入、クラスルームの環境、言語療法、職業訓練など、非薬理学的介入の評価にも注目すべきである。
得られたエビデンスの質は低く、脆弱X症候群の患者に対する葉酸の効果に関する結論を導くには適していなかった。サンプル・サイズが小さく、対象者は全員が男性であり、大きな効果しか検出することができないほどのわずかな統計学的検出力で少数の試験から得られたものであった。
脆弱X症候群患者は体内の葉酸濃度が低く、食事由来の摂取量を補充することで本疾患の発育障害や行動障害が改善する可能性が論じられてきた。
脆弱X症候群患者の治療における葉酸の有効性および安全性のレビューを行うこと。
2010年11月に、CENTRAL、PubMed、EMBASEおよびPsycINFOをデータベース検索した。
ランダム化比較試験
2名のレビュー著者がそれぞれデータを抽出し、コクランの「バイアスのリスク」ツールを用いてバイアスのリスクを評価した。
1986年から1992年に発表された5件の試験を組み入れた。全体では、対象患者の67名は全員が男性で、年齢の範囲は1歳から54歳であった。参加者の知的障害の程度は境界領域から重度まで多様であり、一部の試験では本症以外に自閉症または自閉症行動の診断を受けた患者も対象であった。4件はプラセボ対照クロスオーバー試験で、1件は平行群間試験であった。追跡期間は2カ月から12カ月、葉酸またはプラセボの投与期間は2カ月から8カ月であった。葉酸の投与量は1日あたり10 mgから250 mgで、1日あたり10 mgが最も多かった。若齢の参加者の大多数は、特別教育プログラム(通常は言語療法および職業訓練)にも参加していた。
結果を統合するためのメタアナリシスを実施することができなかった。しかしどの試験でも、精神的能力および学習能力あるいは行動能力および社会的能力のいずれかの関心領域について、標準化されたツールで測定したところ、脆弱X症候群患者への葉酸投与が臨床的に有益であるというエビデンスは得られなかった。患者を年齢別(思春期前の小児および思春期後の若齢者)に解析した結果、統計学的有意差が認められたが、いずれの群でも有益性を示す明らかなエビデンスは認められなかった。葉酸治療の有害作用はまれで、重篤ではなく、一過性であった。
全体的に試験の報告は不十分で、バイアスのリスクが低いと判断した試験は1件のみであった。
《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2018.3.13]
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