経皮的エタノール注入療法による肝臓への転移がんの局所的な破壊は有益か
レビューの論点
経皮的エタノール注入療法(PEI)を用いた肝臓内のがんの転移巣の破壊には、どのような効果があるのか。転移巣とは、がんの原発部位(がんが発生した臓器)以外の身体部位に、新たに発見されるがんの病巣である。本レビューでは、原発部位に関係なく、がんが肝臓内に転移した患者を対象に、他の治療の有無にかかわらず、PEIの効果をPEIなしと比較するランダム化試験(患者を各試験群に無作為に割り当てる試験)を検索した。死亡リスク、がんの進行、健康関連QOL(生活の質)および有害事象(介入によって起こる好ましくない影響)に対する、PEIの効果を調べた。
背景
がんが身体内に広がる際に(転移)、最も多い転移部位の1つが肝臓である。肝臓がん(原発性肝がん)以外で肝臓に発症するがんのうち、最も多くみられるのが大腸がんの肝転移である。肝臓にがんが広がった患者の半数以上が合併症により死亡する。肝臓内の転移は複数の異なる方法で破壊でき、そのうちの1つがPEIである。この治療法は、超音波またはコンピューター断層撮影(CT)のガイド下で実施される。がん病巣に特殊な針を刺し、アルコールを注入してがん組織を死滅させる。超音波およびCT撮影は画像撮影法である。アルコールは、腫瘍細胞から水分を引き出して(脱水)、それによって細胞タンパク質の構造を変化(変性)させることで腫瘍破壊を誘発する。
検索結果および試験の特性
エビデンス検索は2019年9月10日まで実施した。経皮的腫瘍内エタノール注入療法(PEI)と経カテーテル肝動脈化学塞栓療法(別名TACE:腫瘍に栄養を送っている血管に挿入したカテーテルを通して抗がん剤を投与する、肝臓を標的とした治療)の併用療法と、TACE単独療法を比較したランダム化試験は1件のみであった。対象は肝転移のある48人で、うち25人がTACEとPEI療法を受け、23人がTACE療法のみを受けた。原発腫瘍は、大腸がん、胃がん、膵臓がん、肺がん、乳がん、および卵巣がんであった。
この研究には、資金提供および利益相反に関する情報は提供されていなかった。
主な結果
1件の小規模なランダム化臨床試験の結果によると、肝転移患者に対しTACEに経皮的腫瘍内エタノール注入療法を併用した治療は、TACE単独と比較して、死亡率や局所再発に対して有効性または悪影響を示さなかった。試験参加者は10~43カ月間追跡された。腫瘍壊死率は併用治療群の方が大きかった。試験著者により有害事象が少数報告されていたが、詳細については不明である。死亡までの期間、肝転移の消失失敗、肝転移の再発、健康関連QOL、または肝転移の進行までの期間に関するデータはなかった。
エビデンスの質
今回確認した試験はバイアスのリスクが高く、患者数が比較的少なく、全体的に有害事象についての記載がほとんど無く、未だ結論に至らない結果が報告されていたため、エビデンスの正確性は非常に低いと判断された。
《実施組織》 一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT:ジャムティ)『海外癌医療情報リファレンス』(https://www.cancerit.jp/)中村奈緒美 翻訳、辻村信一(獣医学・農学博士、メディカルライター)監訳 [2020.04.22]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクラン・ジャパンまでご連絡ください。 なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD008717.pub3》