乳癌は女性で最も多い癌である。乳房以外に広がった場合を進行乳癌という。進行乳癌に対する治療として、化学療法、内分泌療法、可能であれば手術、放射線治療が挙げられる。内分泌療法のうち、タモキシフェン(TAM)は最も古く最も処方の多い選択的エストロゲン受容体修飾薬である。しかし、いくつかの重大な有害事象がTAMの長期投与後に報告されている。トレミフェン(TOR)はTAMと類似の機序を有し、進行乳癌の治療に用いられる。本レビューの目的は、全生存、奏効、無増悪期間、有害事象の点でTORをTAMと比較することであった。 7件の適格な研究を同定し、全件から奏効に関する情報(患者2,061名)を入手し、5件から無進行生存に関する情報(患者1,436名)を入手し、4件から全生存に関する情報(患者1,374名)を入手した。試験は全般的に古く(1980年代後半~1990年代初期に実施)、中等度の質であった。 これらの試験データに基づくと、奏効率はTOR群25.8%、TAM群26.9%であった。TOR群の患者の50%が6.1ヵ月後進行を示したのに対し、TAM群では5.8ヵ月後であった。TOR群の患者の半数が27.8ヵ月より長く生存したがTAM群では27.6ヵ月であった。TOR群の進行リスクと死亡リスクにTAM群と有意差はなかった。大半の有害事象の頻度は2群間で同程度であったが、TOR群の頭痛発現数はTAM群の約7分の1のみであった。しかし、他の大規模試験の結果を考慮すると、これが純粋に偶然である可能性を否定できない。データが欠如しているため、いずれの治療でも長期の有害事象に関して結論を出せなかった。 本レビューによるエビデンスでは、進行乳癌患者の第一選択療法において、TORとTAMの有効性は同程度であり、TORの安全性プロファイルはTAMに比べて少なくとも不良ではないと示唆された。したがって、抗エストロゲン薬が適応だがTAMの選択が何らかの理由で好ましくない場合、TORはTAMの妥当な代替となる可能性がある。
進行乳癌患者の第一選択療法において、TORとTAMの有効性は同程度であり、TORの安全性プロファイルはTAMに比べて少なくとも不良ではなかった。したがって、抗エストロゲン薬が適応でもTAMの選択が何らかの理由で好ましくない場合、TORはTAMの妥当な代替となる可能性がある。
トレミフェン(TOR)とタモキシフェン(TAM)は両方とも進行乳癌の治療薬として使用されている。
進行乳癌患者を対象にTORの有効性および安全性をTAMと比較すること。
「トレミフェン」、「フェアストン」、「タモキシフェン」、「ノルバデックス」、「乳癌」に対するコードを用いてCochrane Breast Cancer Group's Specialised Register(2011年7月1日)を検索した。MEDLINE(PubMed経由)(~2011年7月1日)、EMBASE(Ovid経由)(~2011年7月1日)、The Cochrane Central Register of Controlled Trials (CENTRAL)(コクラン・ライブラリ2011年第7号)、WHO International Clinical Trials Registry Platform search portal(2011年7月1日)も検索した。さらに、関連性のある試験またはレビューの参考文献リストをスクリーニングした。
進行乳癌女性を対象にTORの有効性、安全性、またはその両方をTAMと比較したランダム化比較試験(RCT)。以下の事項、すなわち、客観的奏効率(ORR)、無増悪期間(TTP)、全生存(OS)、有害事象のうちの一つに関する十分なデータを提供できる試験を適格とした。
適格性および質について研究を評価した。筆頭著者、発表年、国、追跡期間、投与群、ITT対象集団症例数、患者の閉経状態、ホルモン受容体状態、奏効基準、TOR群とTAM群の有効性および安全性アウトカムの詳細を2名のレビューアが別々に抽出した。可能であればイベント発現までの時間についてハザード比(HR)を算出し、奏効および有害事象は二値変数として解析した。著しい研究間の異質性がない場合、メタアナリシスでは固定効果モデルを用いた。
最終解析に7件のRCTによる計2,061名の患者を組み入れ、1,226名がTOR群、835名がTAM群であった。TOR群のORRは25.8% (316/1226) であったが、TAM群のORRは26.9% (225/835)であった。プールしたリスク比(RR)では2群間でORRについて統計学的有意差はないと示唆された[RR 1.02、95%信頼区間(CI)0.88~1.18、P = 0.83]。TTP中央値はTOR群6.1ヵ月、TAM群5.8ヵ月であった。OS中央値はTOR群27.8ヵ月、TAM群27.6ヵ月であった。2群間にTTPおよびOSについて有意差はなかった(TTPについてHR 1.08、95% CI 0.94~1.24;OSについてHR 1.02、95% CI 0.86~1.20)。大半の有害事象の頻度は2群間で同程度であったが、TAM群に比べてTOR群の方が頭痛が少ないようであった(RR 0.14、95% CI 0.03~0.74、P = 0.02)。上記のメタアナリシスの多くで研究間に著しい異質性はなかった。感度分析により結果は変わらなかった。
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