心理療法は病的賭博および問題賭博の治療に対して提唱されており、本レビューでは心理療法に関する現在のエビデンスを要約した。心理療法と、「無治療」コントロール、または賭博常習者更正会への照会などと比較した、最良のランダム化試験を選択した。以下の療法について検討した。(1)認知行動療法(CBT)、(2)動機づけ面接療法、(3)統合療法、(4)その他の心理療法。14件の研究を同定し、これらのデータを統合した。9件の研究のデータでは、治療直後の期間にCBTの利益が明らかになった。しかし、治療後長期間にわたる研究(例:12カ月)がほとんどなく、CBTの効果が続くのかについてはほとんどわかっていない。動機づけ面接療法に関する3件の研究のデータでは、賭博行動の減少に関する複数の利益を示唆したが、病的賭博および問題賭博に関するその他の症状については必ずしも利益があるわけではない。しかし、少数の研究のデータしかなく、動機づけ面接療法に関する結論を出すにはさらなる研究が必要である。また、統合療法(2件の研究)やその他の心理療法(1件)に関するエビデンスを提供する研究も少なく、これらの療法の有効性を評価するには現在のデータでは不十分である。
賭博行動や、病的賭博および問題賭博に関するその他の症状が治療直後に減少したことから、本レビューではCBTの有効性を支持する。しかし、治療効果の持続性については不明である。賭博行動の減少について動機づけ面接療法による複数の利益に関する予備的エビデンスがあるが、病的賭博および問題賭博に関するその他の症状については必ずしも利益があるわけではない。しかし、これらの知見は少数の研究に基づくものであり、結論を出すにはさらなる研究が必要である。また、病的賭博および問題賭博に対して、統合療法やその他の心理療法が利益をもたらす可能性を示唆するエビデンスがある。しかし、これらの療法について評価するには、研究数が少なくエビデンスが不十分である。本レビューの大部分の研究はバイアスのリスクが異なっており、多くのエビデンスが複数の制限がある研究によるものである。したがって、現在のデータは治療の有効性を過大評価している可能性がある。
病的賭博および問題賭博に対するさまざまな心理療法が、ランダム化試験で評価されてきている。最良のエビデンスの統合が必要である。
治療の有効性や治療効果の持続性を明らかにするために、コントロール条件と比較して、病的賭博および問題賭博に対する心理療法(認知行動療法(CBT)、動機づけ面接療法、統合療法、その他の心理療法)に関するランダム化試験のエビデンスを総合することを目的とした。
the Cochrane Depression, Anxiety and Neurosis Review Group’s Specialised Register(CCDANCTR)を検索し、以下の書誌データベースから関連性のあるランダム化比較試験を検索した。CENTRAL(The Cochrane Central Register of Controlled Trials)(全年)、EMBASE(1974年~)、MEDLINE(1950年~)、およびPsycINFO(1967年~)。また、補足として、1980年1月から2011年10月までに発表された研究について、MEDLINE、EMBASE、PsycINFO、LILACS、およびCENTRALを検索した。the WHO International Clinical Trials Registry PlatformおよびClinicalTrials.govを調べ、さらに、選択した雑誌と研究の参考文献リストをハンドサーチした。
ランダム割り付けを行った臨床試験で、病的賭博や問題賭博について検討し、それらに対する心理療法を評価した試験を選択した。コントロール条件は、「無治療」コントロール、Gamblers Anonymous(賭博常習者更正事情グループ)への照会、および非特異的な治療コントロールなどであった。
研究の特性や結果に関するデータを体系的に抽出した。主要アウトカムは賭博症状の重症度、賭博による金銭的損失、および賭博の頻度とした。副次的評価項目は病的賭博の診断、およびうつ病や不安症状の発症とした。治療後の評価時(治療完了の0~3カ月後に実施)に標準化平均差(SMD)を用いて行った治療とコントロール条件の比較、およびリスク比(RR)を用いたフォローアップ評価(治療完了の9~12カ月後に実施)によって、治療効果を判断した。変量効果メタアナリシスによって結果を統合した。
14件の研究(n = 1245)が選択基準を満たした。0~3カ月時にCBTとコントロールを比較した11件の研究では、中程度から(賭博による金銭的損失:SMD - 0.52;95%信頼区間(CI) -0.71~-0.33、n = 505)、かなり大きな効果まで(賭博症状の重症度:SMD -1.82;95%CI -2.61 ~ -1.02、n = 402)、治療に関する有益な効果が示された。1件の研究(n = 147)のみが各群を9~12カ月時のフォローアップで比較し、わずかな効果を認めたが有意ではなかった。動機づけ面接療法に関する4件の研究では、賭博症状が比較的軽い(病的賭博に関する研究と比較して)サンプルについて主に検討していた。データでは、動機づけ面接療法後0~3カ月時に、賭博による金銭的損失の減少が示唆されたが(SMD -0.41;95% CI -0.75~-0.07、n = 244)、その他のアウトカムに関する比較は有意ではなかった。賭博症状の重症度についてはほぼ効果がなかった(SMD -0.03;95%CI -0.55~0.50、n = 163)。9~12カ月時のフォローアップで各群を比較した研究では、賭博の頻度について動機づけ面接療法の有意な効果が明らかになったが(SMD -0.53;95%CI -1.04~-0.02、n = 62)、その他のアウトカムに関する比較は有意ではなかった。また、統合療法に関する2件の研究では、全般的に賭博の重症度が低いサンプルについて検討し、治療後0~3カ月時で有意な治療効果はみられなかった。9~12カ月時のフォローアップの比較では、賭博症状の重症度について中等度の治療効果が示唆されたが、その他のアウトカムについて有意差はなかった。別の心理療法(12ステップ促進グループ療法)について検討した1件の研究(n = 18)では、治療後0~3カ月時で大部分のアウトカムについて有益な効果が示された。これらのさまざまな治療に関するエビデンスの質は、きわめて低~低であった。
《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2016.7.28]
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