慢性B型肝炎ウイルス(HBV)感染は、顕著な死亡率および罹病率の原因となり、世界的に経済的な負担となっている。現在承認されている治療法には有益な効果が認められているが、治療への反応は満足度の高いものではなく、患者にはウイルス耐性が現れる高いリスクがあり、重篤な有害事象も起こる。本レビューの目的は、慢性HBV感染患者を対象にコミカンソウ種と一般的に使用されている抗ウイルス薬を比較した際の有益性および有害性を評価することとした。 過去のCochrane Hepato-Biliary Groupシステマティック・レビューでは、コミカンソウ種とプラセボまたは非介入とを比較した。同レビューでは、慢性B型肝炎患者にコミカンソウ種を使用する根拠となる確定的なエビデンスをみつけることができなかった。
今回のレビューの結果は、290例の患者を対象とした5件のランダム化臨床試験に基づく。コミカンソウは、ラミブジン、インターフェロンα、サイモシンやサイモシンα1などの抗ウイルス薬と3~12カ月間検証された。本レビューの主な結果としては、従来のメタアナリシスでは、治療終了時における血清HBeAgのクリアランスにコミカンソウの効果の優越性が認められたが、試験逐次解析では認められなかった。 抗ウイルス薬と比較してコミカンソウは、血清中HbsAg、血清中HBV DNAのクリアランス、HBeAgセロコンバーションに対して有意な効果を示さなかった。死亡率、罹病率、有害事象、QOL、肝組織像に関するデータは認められなかった。しかし、本レビューの結果は、患者数やアウトカムの数が少ないこと、バイアスのリスクおよび試験デザインの問題のために確定的ではない。コミカンソウの効果を確定または否定するためのランダム化試験をさらに行う必要がある。まずコミカンソウとプラセボを比較評価することを推奨する。このことは、有害性よりも有益性が知られている抗ウイルスをすべての患者に投与し、その後コミカンソウ群またはプラセボ群に患者をランダム化するランダム化臨床試験で行うことができる。プラセボに対するコミカンソウの効果がこのような試験で明白に示されれば、同様の試験でプラセボよりも優れているその他の抗ウイルス薬に対するコミカンソウの効果を評価すると良いであろう。 実施および報告に関する試験の質も考慮すべきである。
現時点でエビデンスが不十分であるため、慢性B型肝炎ウイルス感染患者に対して、コミカンソウの使用を支持したり否定したりできない。コミカンソウに関するランダム化臨床試験を今後実施しようと考えている研究者は、有益な作用および有害な作用の双方を検証するべきであり、有害性よりも有益性が認められている抗ウイルス薬に加えてプラセボを対照にコミカンソウを第一に試験するべきである。個人の倫理的な考慮事項を損なうことなく、このように新たな介入法を評価するべきである。
慢性B型肝炎ウイルス(HBV)感染患者に対するコミカンソウ種(Phyllanthus species)は、臨床試験で評価されてきたが、その有用性に関する一致した見解はない。プラセボや介入なしと比較して、コミカンソウ種が慢性B型肝炎患者で有益であることを示す確定的なエビデンスを特定できなかった。いくつかのランダム化臨床試験では、コミカンソウ種と抗ウイルス薬を比較していた。
慢性HBV感染患者を対象としてコミカンソウ種を抗ウイルス薬と比較した場合の有益性および有害性を評価すること。
Cochrane Hepato-Biliary Gorup Controlled Trials Register、コクラン・ライブラリにおけるCochrane Central Register of Controlled Trials(CENTRAL)、MEDLINE、EMBASE、Science Citation Index Expended、Chinese Biomedical CD Database、China Network Knowledge Information、Chinese Science Journal Database、TCM OnlineおよびWanfang Databaseを検索した。中国語の議事録をハンドサーチした。すべての検索は、2012年10月31までに実施した。
慢性HBV感染患者を対象にコミカンソウ種と抗ウイルス薬を比較するランダム化臨床試験。盲検化、公表状態や言語に制限を設けずに試験を選択した。
2名の著者が独立して試験を選択し、データを抽出した。リスク比(RR)と95%信頼区間(CI)で示した二項データについて、RevManソフトウェアを用いて統計学的解析を行った。システマティックな誤差を調整するため、バイアスのリスクを評価した。信頼性の高い結論を導くため、ランダム化されるべき患者数(必要情報量)を算出した。ランダム化誤差について調整するため、試験逐次解析を用いて累積結果を評価した。
290例の患者を対象としたランダム化臨床試験を5件特定した。すべての試験について、バイアスのリスクが高いと判定された。実験群の患者は、コミカンソウ化合物を3~12カ月間投与されていた。抗ウイルス薬群の患者は、ラミブジン、インターフェロンα、サイモシンやサイモシンα1を投与されていた。いずれの試験も、死亡率、B型肝炎関連の罹病率、QOL、肝組織像について報告していなかった。従来のメタアナリシスでは、治療終了時における血清HBeAgのクリアランスにコミカンソウの効果の優越性が認められたが(RR 0.76;95% CI 0.64~0.91、 P = 0.002;I2 = 0%)、試験逐次解析では認められなかった。 抗ウイルス薬と比較してコミカンソウには、血清HbsAg(RR 1.00;95% CI 0.93~1.08、P = 0.92;I2 = 0%)またはHBV DNA(RR 0.83;95% CI 0.53~1.31、P = 0.43;I2 =70%)のクリアランスに対する有意な効果は認められなかった。 HbeAgセロコンバーションに関するデータは1試験で報告されており、コミカンソウとラミブジンとを比較した際の有意差は認められなかった(RR 0.89;95% CI 0.71~1.11)。5試験で、有害事象に関するデータは報告されていなかった。
《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2016.1.9]
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