脂肪肝疾患は可逆的な疾患で、肝臓の細胞内に脂肪が蓄積する。肝臓が正常に機能しなくなる状態、すなわち末期の肝疾患に至る可能性もある。このシステマティックレビューでは、脂肪肝疾患を治療する生薬(単剤の生薬、生薬専売薬、処方薬)の効果と安全性を評価した。
このレビューで選択したランダム化試験は77試験であり、75種類の生薬が試されていた。すべての試験は、システマティックな誤差(バイアス、すなわち利益の過大評価と有害性の過小評価のリスク)のリスクが高く、また試験の参加人数が少ないために確率的誤差(偶然の産物)のリスクも高い。ランダム化試験で試された生薬は、生薬単剤の製剤(Gynostemma pentaphyllum(アマチャズル)、Panax notoginseng(サンシチニンジン)、Prunus armeniaca(アンズ))、市販の生薬専売薬、開業医が処方する配合剤があった。 さまざまな製品で成分として多く使用されている生薬は、Crataegus pinnatifida(オオミサンザシ)、Salvia miltiorrhiza(タンジン)、Alisma orientalis(サジオモダカ)、Bupleurum chinense(ミシマサイコ)、Cassia obtusifolia(エビスグサ)、Astragalus membranaceous(キバナオウギ)、Rheum palmatum(ショウヨウダイオウ)であった。 多くの種類の生薬が使用されていたため、複数の試験の結果を統合することができなかった。脂肪肝疾患の患者への生薬の使用について、いずれの試験も死亡、肝関連の疾患、QOL、費用に関する結果を報告していなかったため、結論を導き出すことはできなかった。多くの試験で、対照の介入と比較して、酵素活性値(酵素とは体内で化学反応を引き起こすタンパク質である。たとえば、血清アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼ、グルタミルトランスフェラーゼ、アルカリホスファターゼなど)、超音波検査所見、CTスキャン所見に生薬の明確な効果が示されていた。生薬による重篤な有害作用は報告されていない。
ただし、試験の手法として、システマティックな誤差(バイアス)のリスクが高かった。さらに、個々の生薬はほとんど再試験されていないこと、すべての試験で参加人数が比較的少ないことから、確率的誤差(偶然の産物)のリスクが高くなる。したがって、結果は決定的なものではない。脂肪肝疾患に対する生薬の利益と有害性を確立するには、厳密に実施したランダム化試験が必要である。
いくつかの生薬は、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼ、超音波検査所見、CT所見に明確な効果を示すようである。有害作用については、生薬群と対照群の間に有意差はみられなかった。選択された試験のバイアスのリスクが高く、個々の生薬を試す試験数が限られているため、これらの所見は決定的なものではない。したがって、確率的誤差のリスクも高い。
脂肪肝疾患は可逆的な病態であるが、末期肝疾患に至る可能性もある。生薬のたとえばCrataegus pinnatifida(オオミサンザシ)やSalvia miltiorrhiza(タンジン)などを脂肪肝疾患の管理に用いる例が増えているため、脂肪肝疾患への生薬の使用についてのシステマティックレビューが必要である。
アルコール性および非アルコール性脂肪肝疾患の患者に対する生薬の有益な作用と有害な作用を評価すること。
The Cochrane Hepato-Biliary Group Controlled Trials Register、Cochrane Central Register of Controlled Trials (CENTRAL)(2012年第3号)、MEDLINE、EMBASE、Science Citation Index Expanded(~2012年3月1日)を検索した。また、Chinese BioMedical Database、Traditional Chinese Medical Literature Analysis and Retrieval System、China National Knowledge Infrastructure、Chinese VIP Information、Chinese Academic Conference Papers Database and Chinese Dissertation Database、Allied and Complementary Medicine Database(~2012年3月2日)も検索した。
脂肪肝疾患の参加者を対象にして、生薬と、プラセボ、無治療、薬理学的介入、または非薬理学的介入(食事療法、生活習慣、通常医療的介入)とを比較するランダム化試験を選択した。
2人のレビュー著者が独立してデータを抽出した。「バイアスのリスク」ツールを使用して、対象となった試験のバイアスのリスクを評価した。評価したドメインは、ランダム化順序の作成方法、割りつけのコンシールメント(隠蔵化)、盲検化、不完全なアウトカムデータ、選択的なアウトカムの報告、その他バイアスの原因になるものであった。効果の推定値は、アウトカム指標の変数に応じて、リスク比(RR)(95%信頼区間(CI))または平均差(MD)(95% CI)として示した。
77のランダム化試験を選択し、脂肪肝疾患の参加者6753例を対象とした。バイアスのリスク(利益の過大評価と有害性の過小評価)はすべての試験で高かった。試験ごとの平均サンプル・サイズは88例であった(40~200症例)。75種類の生薬製品が試されていた。ランダム化比較試験で試された生薬には、生薬単剤の製剤(Gynostemma pentaphyllum(アマチャズル)、Panax notoginseng(サンシチニンジン)、Prunus armeniaca(アンズ))、市販の生薬専売薬、開業医が処方する配合剤があった。 多く使用されている生薬は、Crataegus pinnatifida(オオミサンザシ)、Salvia miltiorrhiza(タンジン)、Alisma orientalis(サジオモダカ)、Bupleurum chinense(ミシマサイコ)、Cassia obtusifolia(エビスグサ)、Astragalus membranaceous(キバナオウギ)、Rheum palmatum(ショウヨウダイオウ)であった。 死亡、肝疾患の罹患率、QOL、費用を報告している試験はなかった。多くの試験で、血清アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ、アラニンアミノトランスフェラーゼ、グルタミルトランスフェラーゼ、アルカリホスファターゼ、超音波検査、CTスキャンなど、推定される代替アウトカムに対する明確な効果を報告していた。27試験で有害作用を報告していたが、生薬群と対照群の間に有意差はなかった。ただし、選択された試験のバイアスのリスクは高かった。
アウトカムを超音波検査所見としていたのが22試験、肝臓CT所見が8試験、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ値が64試験、アラニンアミノトランスフェラーゼ活性値が77試験、グルタミルトランスフェラーゼ活性値が44試験であった。対照の介入と比較して統計学的に有意な有益な効果を示した生薬は、超音波検査所見が6種類、肝臓CT所見が4種類、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ活性値が42種類、アラニンアミノトランスフェラーゼ活性値が49種類、アルカリホスファターゼ活性値が3種類、グルタミルトランスフェラーゼ活性値が32種類であった。
《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2016.1.9]
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