成人の急性発症の足関節捻挫に対する鍼療法

急性足関節捻挫は、急に発症した足首の靱帯(足首の骨を連結し安定させる組織の強い線維)の傷害である。一般集団、また運動選手における最も多いけがの一つである。鍼療法は、東アジア諸国で足首捻挫の治療にしばしば用いられる。本レビューの目的は、成人の足首捻挫の治療に用いられる鍼療法の利益と有害性を評価することである。2013年5月までの試験を求めて医学文献を検索した。

本レビューは足首捻挫をした人2012名例にかかわる20件の試験を対象としている。これらの試験は多くの点で互いに異なっており、さまざまなタイプの鍼療法をさまざまな標準的な対照介入とともに比較した。ほとんどの試験は、設定時点で回復していた参加者の数での「治癒率」――のみを報告していた。いずれの試験も患者報告による機能の評価は報告していなかった。1件の試験のみが有害事象を報告し、対照介入としての処方箋なしで買える漢方パッチを用いた患者に皮膚障害が見出された。ほとんどの試験は実施方法に欠点があり、そのため試験結果の信頼性が低下していた。例えば、ほとんどの試験で、自分がどちらの介入を受けているかを参加者に知らせないようにできていなかった。

1件は鍼療法を無治療と比べたが、鍼療法によって治癒した参加者のほうが多かった。鍼療法ともう一つの標準治療との併用を標準治療単独と比べた8件の試験のほとんどで、鍼療法群での治癒率が高かった。しかし、これらの結果を統合すると、鍼療法はより良好な治癒率をもたらすという確定的なエビデンスを提供できなかった。

14件の試験では、鍼療法を、漢方薬パッチ、温水と冷水、アイスパック、経口漢方薬、弾性包帯などのさまざまな手術以外の治療と比較した。鍼療法が優位な結果の試験もあれば、他の治療法が優位な結果の試験もあり、検証される2つの介入比較に関するエビデンスがない試験もあった。鍼治療を手術以外の介入と比べた11件の試験から得た結果のプールデータでは、鍼療法が優位な傾向がみられたが、このエビデンスは確定的ではなかった。

現在、得られているエビデンスの質が非常に低いため、成人の足首捻挫治療のための他の標準的方法より鍼療法が効果的であるかどうかを結論することはできない。鍼治療の有害な作用はほとんどの試験で記述されていなかったため、鍼療法の安全性に関しても結論を導き出すことはできない。成人において急に発症した足首捻挫に対する鍼療法の大規模な質の高い試験が必要である。

著者の結論: 

急性足関節捻挫の治療のための鍼療法の効果を評価するランダム化または準ランダム化比較試験の非常に異質性のある群から得られた。現在利用できるエビデンスは、鍼療法の有効性または安全性のいずれについても、単独で用いる場合、他の手術以外の介入との併用の場合、他の手術以外の介入と比較した場合にも、信頼できる裏付けを提供していなかった。急性足関節捻挫治療の鍼療法の有効性と安全性に関して頑健なクリニカル・エビデンスを確立するためには、将来の積極的な、より大きなサンプル・サイズをもつランダム化臨床試験が必要である。

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背景: 

急性足関節捻挫は、急に発症した一箇所以上の足首の靱帯の傷害である。一般集団、また運動選手において最も頻度の高い筋骨格傷害の一つである。中国や韓国などの一部の国では、鍼療法は、単独治療として、または標準医療による治療に伴う副次的介入として、足関節捻挫の治療にしばしば用いられる。

目的: 

成人の足関節捻挫のための鍼療法の効果(利益と有害性)を評価すること。

検索戦略: 

Cochrane Bone, Joint and Muscle Trauma Group Specialised Register(2013年5月)、Cochrane Central Register of Controlled Trials(Cochrane Library2013年第4号)、MEDLINE(1948年~2013年5月第2週)、EMBASE(1980年~2013年5月第2週)、China National Knowledge Infrastructure databases(1994年~2013年8月第4週)、Cumulative Index to Nursing and Allied Health Literature(1937年~2013年5月)、Allied and Complementary Medicine Database(1985年~2013年5月)、Science Links Japan(1996年~2013年8月第4週)、いくつかの韓国の医学データベース(2013年8月第4週)、World Health Organization International Clinical Trials Registry Platform(2013年8月第4週)、選択した試験の参考文献一覧、学会紀要を検索した。

選択基準: 

急性足関節捻挫患者を対象としたランダム化比較試験および準ランダム化比較試験を選択した。針を用いる鍼療法、電気鍼療法、レーザー鍼療法、薬鍼療法、非穿通経穴点刺激(例えば指圧と磁石)、灸などのすべてのタイプの鍼治療を含めた。鍼療法を対照(無治療またはプラセボ)や他の手術以外の介入と比較することが可能であった。

データ収集と分析: 

2名のレビュー著者が独立して検索結果をスクリーニングし、試験の適格性を評価し、バイアスのリスクを評価し、選択した試験からデータを抽出した。2値アウトカムのリスク比(RR)を、また連続アウトカムは平均差をそれぞれ算出した。固定効果法、または適切な場合はランダム効果法を用いてメタアナリシスを実施し、全体で95%信頼区間(CI)を用いた。

主な結果: 

20件の異質性のある試験を選択した(急性足関節捻挫患者2012例)。そのうち3件は複数の比較を実施したものであった。17件は中国で実施された。すべての試験は盲検性に欠けるためバイアスのリスクが高かった。研究結果は選択バイアスにも影響を受けていた可能性がある。特に5件は準ランダム化比較試験で、12件はランダム化の方法について何の情報も提供していなかった。事前に規定した3つの主要評価項目のうち、大多数の試験では治癒率だけが報告されていた。患者報告による機能評価に関して報告した試験はなく、1件のみが有害事象を報告していた(対照介入群3例に一般市販薬の漢方パッチによる皮膚障害が発現した)。その他の19件では有害事象の記録または報告はなかった。すべての比較に対して、治癒率のエビデンスの質は非常に低いと評価した。それは、いずれの推定の信頼性に関しても不明確であるという意味である。

鍼療法を無治療と比べた単一の試験では、鍼療法は5日目での治癒率に関してより効果的であることが見出された(31/31対1/30、RR 20.34、95% CI 4.27~96.68)。8件で、鍼療法ともう一つの標準治療との併用をその標準治療単独と比べた。治癒率のデータは7件で確認されていた。これらの試験のほとんどで、鍼療法ともう一つの標準治療との併用群で標準治療単独群よりも高い治癒率が報告された。しかし、鍼療法と鍼療法なしの治療を比較した8件の試験から得た治癒率のデータの探索的メタアナリシスの結果では、鍼療法が勝っている傾向があったが、結果は試験全体で非常に一貫性がなく、推定された効果は非常に不正確であった(383/396対72/355、RR 1.32、95% CI 0.95~1.84、 P 値 = 0.1、I2 = 98%)。

14件では、鍼療法を漢方薬パッチ、温水と冷水、アイスパック、経口漢方薬、弾性包帯などのさまざまな手術以外の治療と比較した。鍼療法が勝っていた試験もあれば、他の治療法が勝っていた試験もあり、検証される2つの介入の差のエビデンスが欠けていることがわかった試験もあった。鍼療法ともう一つの手術以外の介入を比べた11件から得た治癒率データの探索的メタアナリシスの結果では鍼療法がわずかに勝る傾向であったが、統計学的に有意ではなく、データは非常に異質であった(404/509対416/497、RR 1.07、95%CI 0.94~1.22、P 値 = 0.30、I2 = 92%)。

訳注: 

《実施組織》厚生労働省「「統合医療」に係る情報発信等推進事業」(eJIM:http://www.ejim.ncgg.go.jp/)[2016.1.9]
《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、eJIM事務局までご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。eJIMでは最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。

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