レビューの論点
コクランレビューの著者は、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)の症状に対する卵巣手術の効果に関するエビデンスを統合した。外科的治療や非外科的治療、手術手技の変法を比較した22件の研究を見つけた。主な結果は、月経の規則性の改善、むだ毛の増加とにきび(アンドロゲン症状)の減少だった。また、治療による害、体重の変化、テストステロン値の変化、メタボリック指標の変化、生活の質(QOL)についても調べた。
背景
PCOSの女性は、月経不順、むだ毛やにきび、不妊症など、さまざまな健康上の問題を抱える可能性がある。長期的な健康上の懸念としては、心疾患、糖尿病、子宮の前がん性病変の発生リスクの増大などがある。
現在実施されている研究のほとんどは、PCOSの女性の妊孕性改善における卵巣手術の効果を検討している。本レビューはPCOSの他の症状の改善に対する、腹腔鏡下卵巣手術 (LOD:腹腔鏡下卵巣開孔術) の影響を調べることを目的とする。
検索日
このレビューのエビデンスは、2016年10月現在のものである。
研究の特徴
2,278人の女性を対象とした22件のランダム化比較試験(RCT)を包含した。ランダム化比較試験は、医学研究の手法のひとつで、研究の中で研究参加者は、2つまたは2つ以上の異なる治療法のうちの1つを受けるようランダムに割り当てられる。参加者はPCOSがあり、世界中のさまざまな環境から参加した。
22件のRCTのうち、10件が腹腔鏡下卵巣開孔術(LOD)と内科的治療法を比較している。内科的治療法には、メトホルミン、クロミフェン、ゴナドトロピン、レトロゾール、ロシグリタゾンなどが含まれていた。22件の研究のうち10件は、従来の腹腔鏡下卵巣開孔術と手術手技の変法を比較している。残る2件のRCTでは、腹腔鏡下卵巣開孔術時の超音波メスの出力レベルや卵巣に開ける穴の数を変えて検討している。
研究の資金源
2件の研究が資金源を報告している(Farquhar 2002 :一部オークランド医学研究財団の支援を受けた。Sarouri 2015: 著者は、プロジェクトに資金を提供してくれたギラン医科大学研究副総長に感謝を述べた)。
主な結果
腹腔鏡下卵巣開孔術(LOD)はゴナドトロピンよりも月経周期の調整に優れている可能性がある。しかし、ほとんどの医師は第一選択の治療法として他の選択肢を検討する。卵巣に開ける穴の数が2つ以下の場合に比べ、4つまたは5つの穴を開ける腹腔鏡下卵巣開孔術は、PCOS女性の月経調節により効果的である可能性がある。
月経の規則性やアンドロゲン症状の改善において、腹腔鏡下卵巣開孔術と他の医学的治療や手術手技の変法との間に違いがあるかどうかを判断するには十分なエビデンスがなかった。
腹腔鏡下卵巣開孔術は、メトホルミンやクロミフェンに比べて消化器系の副作用が少ないとされているが、手術を伴うため、月経障害や望まない発毛に対する標準的な治療法ではない。腹腔鏡下卵巣開孔術に比べて経腟的に行う腹腔鏡は傷跡が少なかった。
総合的に見て、腹腔鏡下卵巣開孔術は有害性のリスクが低く、PCOSの症状を管理するための選択肢の一つであると考えられる。
エビデンスの質
エビデンスの質は、中程度から非常に低いものまであった。主な限界は、研究数の少なさに起因する不正確さ、一貫性のなさ、そして参加者を盲検化(どんな治療の種類を受けたのかを分からないようにする)できないことに起因するバイアスのリスクだった。出版バイアスのリスクを評価するには、研究数が少なすぎた。
《実施組織》 増澤祐子、杉山伸子 翻訳 [2021.09.06] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD009526.pub2》