地域におけるマラリア治療プログラムに迅速診断検査を取り入れることで、マラリアや発熱に対する治療内容が改善されるか?

要点

・マラリアが深刻な問題となっている地域(マラリア流行地域)では、多くの人が必要な治療を受けることができない。
・マラリアを診断するための迅速診断検査(mRDT)は、指を刺して、血液を小さな検査用のカセットに滴下するという簡単なものである。
・マラリア流行地域におけるマラリア治療プログラムというのは、医療の専門資格を持たない人々が、身体所見や症候に基づく診断(身体所見による診断)を行うのではなく、mRDTを利用することで、マラリアの治療状況が改善される。
・抗菌薬の処方頻度に対するmRDTの影響を知るには、さらなる研究が必要である。

地域ごとの治療プログラムにおいて、マラリアはどのように診断され、治療されるのか?

マラリアには有効で安全な治療薬(抗マラリア薬)があるが、特に医療施設から遠く離れた場所に住んでいる場合は、多くの人はいまだに治療薬が必要な時であっても治療薬を入手することが難しい状況である。この状況を改善するため、正規の医療資格を持たない地域の住民が、マラリアかどうか徴候や症状の確認を行ったり、mRDTを使用したりして、マラリアを診断、治療するための訓練を受けている。これらを担うのは、地域保健に従事する医療者や、調剤薬局ではないドラッグストアの販売員などである。

何を調べようとしたのか?

本レビューでは、正規の医療資格を持たない地域の住民が使用している2種類のマラリア診断法(mRDTによる診断、または身体所見による診断)が、マラリアの治療に及ぼす影響について比較することが目的とされた。また、地域でmRDTが使用された場合と、病院などの医療施設で通常の治療が行われた場合とを比較し、どちらの方法がマラリアの疑いのある患者に対し、より良い治療結果がもたらされるかを明らかにしたいと考えた。

何を行ったのか?

本レビューは、過去に行われたコクランレビューの更新版である。オンラインデータベース検索により、地域において、mRDTによる診断が行われた場合と身体所見による診断が行われた場合、またはmRDTによる診断の上で治療が行われた場合と、医療施設で治療が行われた場合とが比較された研究が検索された。研究デザイン、治療を受けた患者、正規の資格を持たない医療従事者の種類、訓練の状況、使用されたmRDTと治療法、結果(死亡者、抗マラリア薬が使用された、または使用されなかった患者の数、および抗菌薬の使用など)についての情報が収集された。可能な場合には、統計ソフトウェアにより結果が統合され、分析された。

何がわかったか?

アフリカから6件、ミャンマーから1件、およびアフガニスタンから1件の研究が見つかった。5件の研究では、地域においてmRDTが使用された場合と身体所見による診断が行われた場合とが、3件の研究では、地域においてmRDTが使用された場合と医療施設にて治療が行われた場合とが比較されていた。5件の研究では、地域における診断(mRDTによる診断か所見による診断かを問わず)を二重検査するために検査室での検査が行われていた。1件を除く他のすべての研究において、スタッフの訓練期間は1週間未満だった。使用された抗マラリア薬は、ほとんどが口から服用するものだったが、2件の研究では、重症の小児に対して座薬を使用する訓練が行われていた。また、ほとんどの研究において、mRDTの結果が陰性だった場合、重症の場合、また患者が乳児や妊婦であった場合は医療施設に送るよう、訓練が行われていた。薬は無料で提供されることもあったが、代金を払う必要がある場合には、しばしば割引価格で提供された。通常、mRDTは無料で行われた。

地域でmRDTが使用された場合、非感染者が抗マラリア薬を投与される事例は非常に少なかった(100人あたり約71人少ない)。さらに、地域保健に従事する医療者は、ドラッグストアの販売員よりも非感染者に抗マラリア薬を投与する事例が少ないと思われた。

同様に、mRDTによって診断された場合の方が、より多く(100人あたり約45人多い)の患者に対し、正しい治療が提供されていた(臨床検査により確認されたマラリア感染者には抗マラリア薬が投与され、非感染者には抗マラリア薬は投与されなかった)。mRDTの結果が陰性(地域の医療従事者やドラッグストアの販売員により確認された)であっても、抗マラリア薬が投与された事例があったことがいくつかの研究で報告されていた。また、1件の小規模な研究では、身体所見による診断が陰性の場合でも抗マラリア薬を投与された事例があったことがわかった。逆に、他の研究では、mRDTの結果が陽性でも抗マラリア薬を投与されなかった事例が数例あったことがわかった。

また、身体所見による診断が行われた場合に比べ、mRDTによる診断が行われた場合では、臨床検査の結果が陰性であった場合における抗菌薬の使用量が若干増加していることがわかった(100人あたり約13回の増加)。地域においてmRDTにより診断が行われた場合と、医療施設で通常の治療が行われた場合との比較では、患者の健康状態や、行われた治療法に関する結論は導き出せなかった。

被験者における死亡例はほとんどなかった。

エビデンスの限界は何か?

mRDTが行われた後において、非感染者に対して抗マラリア薬が投与される事例は少なく、またmRDTにより診断された患者は、そうでない患者より適切な治療を受けられるという結果には、中程度の確実性があると判断された。理由は、研究方法に多少の違いが見られたとしても、これらの結果が導かれた研究における被験者数が多かったためである。

このエビデンスはいつのものか?

2021年9月14日時点のエビデンスである。

訳注: 

《実施組織》小泉悠、阪野正大 翻訳[2022.10.03]《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクランジャパンまでご連絡ください。なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review, Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。 《CD009527.pub3》

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