腹腔鏡手術時に腹腔内に送気する各種の気体について

レビューの論点

腹腔鏡手術(鍵穴手術)で臓器への手術操作を容易にすることを目的とした、腹腔(お腹の中の空間)の気腹(気体で膨らますこと)に用いる各種気体の有益性および有害性は何か。

背景

現在、腹腔鏡手術は広くさまざまな腹部疾患の治療に用いられている。手術に必要な空間や視野を確保するために、腹腔内に送気する理想的な気体は安価で無色、引火性および爆発性がなく、体内から容易に排出され、患者および手術スタッフへの害が皆無のものである。この条件から、現在は二酸化炭素が最も多く使用されている。しかし、二酸化炭素の使用は心臓や肺の合併症を引き起こす可能性がある。そこで、二酸化炭素の代替となる他の気体が提案されている。

研究の特徴

2021年10月までの関連する全研究を検索した。

参加者583人を対象とした臨床試験10件を特定した。そのうちの3件(260人)は亜酸化窒素(笑気ガス)と二酸化炭素の比較、5件(177人)はヘリウムと二酸化炭素の比較、1件(146人)は室内気と二酸化炭素の比較であった。研究は、米国、オーストラリア、中国、フィンランド、イラン、オランダで実施された。試験参加者の平均年齢は19歳から62歳であった。

研究の資金源

対象となった10件の研究のうち、2件は非営利的な助成金による資金提供を受けていた。残りの8件の資金源は明記されていなかった。

主な結果

心臓または肺の合併症、手術合併症、あるいは重篤な好ましくない事象を起こした患者数について、亜酸化窒素、ヘリウムおよび室内気が二酸化炭素より優れているか、同等か、劣っているかは定かではない。

レビューに含まれた対象者が少ないため、亜酸化窒素、ヘリウムおよび室内気を使用する安全性は不明である。

エビデンスの質

この結果に対するエビデンスの質は全体的に非常に低い。したがって、合併症、有害性、QOL(生活の質)および疼痛について検討するための、よく設計された試験が今後早急に必要である。

訳注: 

《実施組織》一般社団法人 日本癌医療翻訳アソシエイツ(JAMT:ジャムティ)『海外がん医療情報リファレンス』(https://www.cancerit.jp/) 中村 奈緒美 翻訳、泉谷 昌志(東京大学医学部付属病院消化器内科)監訳 [2022.06.04] 《注意》この日本語訳は、臨床医、疫学研究者などによる翻訳のチェックを受けて公開していますが、訳語の間違いなどお気づきの点がございましたら、コクラン・ジャパンまでご連絡ください。 なお、2013年6月からコクラン・ライブラリーのNew review、Updated reviewとも日単位で更新されています。最新版の日本語訳を掲載するよう努めておりますが、タイム・ラグが生じている場合もあります。ご利用に際しては、最新版(英語版)の内容をご確認ください。《CD009569.pub4》

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